愛の奥宮殿へ


  『刻まれしもの』

  Presented by 黒猫様



「当選番号は…1326番です♪」

多くの待女達が固唾を飲んで見守る中、無作為に選ばれたハピルスの番号が読み上げられた。
全員が食い入るように、各々手にした小さな棒を凝視する。

「…!?ええぇぇぇ〜〜〜っっっ!!!」

僅かな間を置いて周囲からあがる落胆の溜息の中、部屋の一角から突如上がった盛大な悲鳴。
その場にいた全員の視線が一点に集まる。

小さな棒を握りしめ、ふるふると震えているのは黄金の王妃。

「お、王妃さま?」

「如何なさいましたか?」

「姫さま…まさか?」
 
「……ウソ……。あ、当たっちゃった……」

「「!!」」←一同驚愕

「テ、テティ…どうしよう?」

「姫さま、ちょっと失礼します。まぁ…見事に当たっておりますわ♪」

「…何はともあれ、おめでとうございます」
 
「「お、おめでとうございます!!」」

ファラオ付きの待女に続き、我に返った王妃の待女達が祝いの言葉を述べる。

「…おめでたい…のかしら??…ねぇ、もう1度抽選をやり直すとか…」

「いいえ!厳正なる抽選の結果は絶対です!!」
 
「そうですわ、これこそ神の御意思に違いありません!!」

  (どんな意思よ〜!?)
 
「正にファラオの御寵愛の賜ですわ!!」

 (ちょ、寵愛って…(///)…賜〜〜!?)

周囲を取り囲む待女達の勢いに押され、最早異論を差し挟む余地もなく…黄金の王妃は追い立てられるように別室へと連れて行かれた。

「…では王妃様。見事当選なさったからには、無事にお務めを果たして頂きます。よろしいですね?」

「…は、はい……」
  (ってホントにやるの〜〜!?)

気心の知れた己が待女達と違い、ファラオである夫付きの待女は流石に迫力が違う。

あれよあれよと言う間に着付けられた待女の衣装は、胸元も腰回りもぶかぶかで丈も余る。

  (なんか…コスプレみたい…(T-T))

「では、ファラオのお戻りまでに一通りの手順を覚えて頂きます」

「よ、よろしくお願いします…(はぁ〜)」




************



ここ数日の懸念であった議題がようやく片付き、ファラオは常よりも早い時刻に政務を終え自宮に戻った。
夕餉前の一時、並々と張った湯にゆったりと身を沈める。
ファラオの気に入りの時間…もっとも、愛妃と共に過ごす閨での時間とは比ぶべくもないが…


  (ふっ…今宵は久方振りにゆっくりと楽しめそうだな…) ←M様不埒な妄想中一(笑)

 
「ファラオ、御前失礼致します」

「うむ」  ←生返事

「本日御世話をさせて頂く待女を連れて参りました」

「あぁ」  ←全く興味ナシ

「…失礼致します」

  (!?)
 
聞き違えようのない愛しい声に、ファラオは湯につかったままつと視線を向けた。
切長の瞳が僅かに見開かれる。

視線の先にいたのは一人の小柄な待女。
華奢な体にはやや大きめの待女の衣装を纏い、常は夫の好みにより下ろしていることの多い黄金の髪は、きちんと纏めて高く結い上げられている。

「キャロル?」


側仕えの待女から事の次第を聞いたファラオは満足気な笑みを浮かべ、軽く手を振ると周囲の待女を下がらせた。


「……なかなか…良い趣向ではないか」

「…」
  (もぅっ、明らかに楽しんでるわね(睨))
 
「…では、待女キャロル。本日はそなたに介添えを申し付けるとしよう」

  (まるっきり罰ゲームじゃないの〜。いいわっ、こうなったら教わった通りに、完璧な待女を務めて見せるわよ!)

生来の負けん気の強さが、彼女の闘志(?)に火をつけた。

「かしこまりました。…ファラオ」

あくまでもしおらしく答え、体を洗う為の練布や香油壷が載せられた盆を手に静々と湯船に近付く。
真正面から向けられる視線が気恥ずかしく、ややうつむきがちに歩く彼女は足元に全く注意を払っていなかった。
湯船まであと数歩という所で、(先刻ファラオが湯船に飛び込んだ(笑)際の飛末で)濡れた床に足を取られ…

「ひゃぁぁっっ!!」
 
見事に滑った待女キャロルは、ファラオの待ち構える湯船に頭からダイブした…。

ざっぱぁぁ〜んっっ!!

手に持っていた盆や香油等を湯船にぶちまけ、派手な水飛末を上げてブクブクと湯底に沈む。

「くっくっ…随分と大胆な待女だな。そうか、共に湯あみがしたかったのか」

「ゲホッ、ち、違っ」

メンフィスは笑いながらキャロルを水底から掬い上げ、湯底に腰を下ろした己が膝の上に横抱きに座らせた。
ジタバタともがくが、がっちりと抑え込まれた上に濡れて重さを増した衣装がまとわりついて身動きが出来ない。
褐色の引き締まった広い胸がすぐ目の前にある。いつも間近で目にしているはずなのに、胸がドキドキする。首筋から流れ落ちる水滴が褐色の胸を伝う様は、まるで褥上で汗が滴る様にも似て…

  (ダメっ!今そんなコト考えちゃ…///)

頬が熱く感じるのは、湯殿の熱気の所為ばかりではないことに自分でも気付いている…。
 
「ふっ、私の裸など毎夜見慣れておろうに…。おかしなヤツだな」

メンフィスは乱れた金色の髪を一房手に取り口づけながら、意味あり気にニヤリと笑った。

  (////)

私が何を思ったかなんて、メンフィスにはきっとお見通しなのだろう…。

「湯に入るにこれは必要あるまい」

「あっ、ま、待ってっ!!」

ろくに抵抗も出来ないままに、身に付けた衣装を全て剥ぎ取られた。露にされた雪肌に目をそばめ、メンフィスが感嘆の溜息を漏らす。

「…あ、貴方だって私の体なんて見飽きてるでしょ」

己が裸身に向けられる夫の熱い視線に耐えかねて、先程の彼に負けじと言い返す。

「何を申す…どれ程に見つめようが、どれ程にこの腕に抱こうがまだ足りぬ…」

滴る程の情熱を秘めた黒曜石の瞳…このまま至近距離で見つめられたら、魅入られてしまいそうで…ふと反らした視線の先に湯面を漂う練布が見えた。

  (そうよ!今の私は待女なんだわ!お務めを果たさなきゃ!!)

ぶんぶんと頭を振り、本来の役目を思い出す。
 
「もぅっ、背中を流すから立って向こうを向いてちょうだい!」

心地よい抱擁からどうにか逃れ、練布を掴み取ったキャロルががなり立てる。

甘いムードも何処へやら…到底待女とは思われぬ口調で己に命じる愛妃。
ファラオは内心やれやれと嘆息しつつ、ややあってゆっくりと立ち上がると言われるままに背を向けた。

広い背を覆う艶やかな黒髪。まるで黒絹糸の様な髪を掬い上げて現れたのは、鍛え抜かれた逞しい背中。そして…本来傷ひとつないハズの夫の褐色の背に刻まれた、おびただしい爪痕…

  (!?…こ…これって…もしか…しなくても、私…の…/////)

傷の原因に気付くと同時に、うっかり昨夜の閨での有様までも鮮明に思い出してしまい…頬のみならず彼女の全身が瞬時に朱に染まる。

「如何した、待女キャロル?」
「…おぉ、これか。昨夜我が妃に付けられたものよ。あやつは真白き腕ですがりついてきおってな、幾度も我が名を叫びながら…」
  
「い〜やぁ〜〜っ!言わないで〜〜〜っっ!!」

「ん?何故待女であるそなたがうろたえるのだ?」

甘いムードを粉砕された先程の意趣返しとばかりに、メンフィスが意地の悪い笑みを浮かべながら既に涙目のキャロルをからかう。
 
「メンフィスの馬鹿〜〜〜!!馬鹿馬鹿馬鹿〜〜〜!!」

ファラオは両の拳で胸を叩くキャロルの細腕を捕え、そのまま押さえ込んだ。

「なんと…待女の身で恐れ知らずな暴言を吐くものよ…」

「もう知らないっっ!!メンフィスなんて嫌いよっ!」



くすくすと笑いながらも、暴れる彼女の両腕を縛めた力は緩まない。

「ふっ、無礼な待女には仕置が必要だな」
 
言うやいなや、ぷいと背けられた彼女の頤に手を掛け、他方の腕で強引に細腰を抱き寄せると有無を言わさず口唇を塞いだ。

「んんっ、ん〜〜っ!」

どれ程にもがいても、絡みついた逞しい腕も熱い口唇も外せない。
 
「んぅ…ん……」

容赦ない口づけに次第に意識が遠ざかり、膝から崩れ落ちた体を逞しい腕が抱き上げた。

「さて、王に向かってあれだけの暴言を吐いたのだ。覚悟は出来ておろうな、待女キャロル?」

腕に捕えた愛しい獲物に、妖艶ともいえる微笑みを向けながらファラオが嘯いた。

  (う…ん…メンフィス?微笑ってるように見えるけど…何?)

いまだ朦朧としたキャロルを抱いたまま、ファラオは湯殿を後にした。

湯殿役だったハズの一日待女は、そのまま御寝所までお持ち帰りされ…本来のお務め(お夜伽(笑))をきっちり果たすまで眠らせてもらえなかった…。

翌日、ファラオの背には側仕えの待女達が赤面する程のおびただしい爪痕が刻まれていた。
一方、日が高くなっても眠り続ける王妃の胸には、爪痕の返礼とばかりに散らされた数多の紅花片。


互いの背と胸に刻まれた想い…それは共に在(あ)る限り消えることのない愛の証…。




end





M様、背中流してもらってないじゃん?とか、素裸(マッパ)で寝所に向かったンかい?とかはツッコんじゃいや〜ん(笑)
…と、まぁ〈Hold up〉を拝見しながら妄想していたワケです(笑)

 黒猫 拝

うわぁ〜い♪嬉しいな嬉しいな♪ 
…と、一番に拝見できるこの幸せ♪ もう艶やかな王様に大感激です!
黒猫様、このたびは本当〜に素敵なプレゼントをありがとうございました!!

8周年記念にとお送りいただいた黒猫様の珠玉の『プチらぶ』♪
蛇足とは知りつつも…妄想がうずうず・・・浮かんだままに駄絵つけてしまいました。
喜びからの産物ということでどうぞご笑納下さい(^^ゞ

 PLEIADES 拝