『愛するあなたの為だから・・・・』
Presented by みんみんままさま
そこは侍女の部屋――― 何故、彼の人はそこに居るのであろうか―――? 彩なす部屋に存在すべき人が。 何故? 何ゆえ・・? 「いったーい!!」 柔らかな唇から上る声。また柔らであるはずの声は――そう苛立っていた。 うーっもっとちゃんと習っていれば・・・ あの頃、ママとばあやの言うことをちゃんと聞いて置けば。 でもそれだけが理由じゃぁ無いわよ。道具も違うんですもの〜 苦手なのよ〜〜 あぁ、もぉっ、ちゃんと出来るかな。 急がないと間に合わないよ〜誰かに・・・ んん〜〜手伝ってもらったら意味ないわよね。 喜んでもらいたいし。頑張らなきゃ!! 床の上に色々散り置きながら真白き手を動かす。 動かしては逡巡し、また動かす。 繰り返し―――繰り返し。 そして、その腕の中でまた何か?何をしているのか――― 「そなた、昼間何をしていたぞ?」 「えっ・・・何って・・・」 「最近、部屋に居らぬ事が多いようではないか」 そう、部屋を留守がちにする妃を不振に思い、視察を早めに切り上げてもどったのだ。案の定、彼女は居なかった。 「テ、テティに頼んで色々、宮殿内を見学していたのよ!!結構私の行った事のない場所ってあるからついおもしろくって」 「テティとだと?」 訝しげに件の侍女を睨む。 竦み上がりつつも女主人に加勢するべく、侍女の頭が縦に揺れている。 胡乱な眼をそれでも尚且つ妃に送りながらも納得したようである。 「大丈夫。もう宮殿の外には行かないから」 「無論であろう!!!」 ・・・よかったぁ。突っ込まれたらどうしようかと。 本当は自分の部屋でやれたらいいんだけど。 まだ今はあんなに広がるんですもの、隠せないわ・・・すぐ見つかっちゃう。 だめ、だめ。やっぱりテティには悪いけどあそこで・・・ そして月日は流れ行く。 何事があっても何がなくとも。止めようもなく流れていく。 この流麗たるナイルのように。 あの緊迫した会話が交わされてのち数ヶ月後。 「誕生日おめでとう!!」 朝日が輝きを増し、誰しもに平等に光を与える。 そのきらきらと光が舞い飛ぶ時刻。 目覚めるやいなや――― 誰よりも愛し、恋する夫の胸に飛び込みつつ彼女は祝いの言の葉を綴る。 多分、当本人にはそれが何よりもの祝いであったろう。 現に今も愛妃を胸に抱きつつ、至極満足の体である。 激情苛烈と謳われたその人とは思えぬほどに角のとれた柔和な笑顔。 しかし抱きしめていた愛しい白肌を離され、それは灯心を切られたようにほんの僅か萎んだ。 妃は替わりにするかのように包まれた“それ”を愛する人の胸に充てる。 未だ名残惜しげな表情をそのかんばせに匂わせつつもそれを受け取る。 「これは?」 「開けてみて。私からの贈り物!!」 ねぇ、ねぇとばかりに催促する彼女に少し苦笑しつつも、包みを開ける。 中にあったのは・・・何色かが配色されている―――? 「変わった布だな。継ぎばかりではないか?」 これはなんぞ?奴隷の持つものか?という言葉は口中より出しはしない。 何しろこれは“彼女からの贈り物”だからだ。 普段なら決して手にはしないであろうその―――ぼろに見える布。 一体これはなんであろうか?? 「うふふ。私が縫ったの。パッチワークっていうのよ!」 そして彼女は説明する。微笑つつ――故国での思い出。その役割を。 「私もママが作ってくれたのをずっと使ってたのよ。すっごいお気に入りだったの。それはそのぅ、もっと凝ったパターンで、これは一番単純な9枚綴りなんだけど」 でも作るのは大変だったのよ。配色考えながら切った布地を床に並べてね・・・ と製作過程まで披露する。 そんな彼女を益々、愛おしく見つめる漆黒の瞳。 「そなたが作ったのか?この私のために・・・」 頬を紅潮させ頷く妻をもう手放せない。 ふと気づく。その愛する人の指先を見つめる。 「それでそのように指ばかり怪我をしておったのか」 ・・・まったく勝手に怪我をしてはならぬとその美しい体を甚振るようなことがあってはならぬといつも申しておるに。しかし、この私のために。 「この愛いやつめ・・・」 漆黒と真白の体が混ざり行く。お互いに溶け込むかのように。 互いに互いを求め合う。 強く――優しく相愛の人と共にある幸せを感じながら――― 書記日記 1:ファラオにおかれてはその“パッチワーク”なるものを殊の外お気に入りになられ寝るときはもちろん、肩衣としてもお使いである。しかし、お妃に日に焼けると布が劣化すると進言され外出用の着衣はあきらめられたようである。 2:全指を針で怪我されてまで製作されたナイルの王妃にファラオより純金のシンプル(指貫)なるものを贈られた。ファラオの真意はまた作って欲しいお心が込められていた様に思われる。 が未だにその後2枚目が完成されたとの話は聞かれないのである。 また、水玉の模様と思われていた褐色は実は王妃様が指を針で突かれた際に落とされた血の跡であるという。 Fin. |