chapter 13
〜 舞踏 〜
シャンシャンとシストラムの澄んだ音が天井の高いホールに響いていた。
くるくると踊り回る少女たちのステップ
綺麗な列を組んで通り過ぎていく
美しい色あいの裾が優雅にひるがえるさまは見ている者の心まで浮き立たせる。
「はい、もう一度」
パンパンと手を叩き、一人の少し年配の女性がホールの奥で一団を呼び招いた。
動きを止めた少女たちが、最初に位置していた場所まで駆け戻っていく。
しゃら・・しゃらしゃら・・
パタパタ・・
華やかにさざめくアクセサリーや軽やかなサンダルの音
少女たちのあどけない笑い声
「もっと動作をそろえて!リズムは正確に。踏み出す時の足がまだばらばらです!」
「はい!」
「では最初から。目線を合わせて。指先まで気を配って!」
ざわめいていたホールにぴたりと静けさが舞い戻る
全員が自分の所定の場所に静止し、ポーズを構えて合図を待つ
先頭の女性のシストラムが鮮やかに静寂を断ち切り空気を震わせた。
ざっ・・・
一斉に女神達の舞が始まる
同じ動きで隊列を組んで優雅な裳裾がひらひらと回転していく
両手に掲げたシストラムが時に力強く天へと響くと、知らず知らずのうちに気持ちが高揚してくる
独特の南国のリズムと神聖な舞
神への踊り
豊穣の舞
どうしてこんなに見るものの心を釘付けにしてしまうのかしら?
初めて見聞きする国の音楽でも踊りでも、いつでも心が奪われてしまう。
楽しくて・・幸せにあふれていて・・自然に嬉しくなってくるの。
時空を超えてもそれは同じなのね・・・・
腕が・・足が・・その同じリズムをとって一緒に踊りだしたくなってしまうわ。
右へ・・左へ
腕を返してツーステップ・ターン・・・
比較的定型な短い振りが繰り返す舞いだったので、数回繰り返し見ているうちに次に来るだろう動作がだんだんと分かってきた。手をつながないフォークダンスのようにも見える。
「ふふっ」
くるり・・・
タンっ・・・
がまんできなくなってその場でターン
見よう見まねで舞ってみる
両手には何も無いが、音を鳴らす時にはスナップをきかせてみたり。
広間で繰り広げられる踊りの輪にあわせて、柱の影に一人踊る
ふわりと広がる自分の衣装
そう・・・こうしてドレスを翻して踊ると楽しかったわ。
お転婆で・・そりゃぁ「土いじり」が大好きで、特にばあやには『おしとやかにしなさい』っていつも怒られたけど、女の子だもの、綺麗な踊りはもちろん大好きだったわよ。
小さい頃は、習ったばかりのバレエの振りを暖炉のある広間で披露するのが日課だった。
パパもママも兄さん達もとても褒めてくれて・・・・・・・
揺れる金の髪
綺麗な弧を描いた指先の向こう
そこにはいつも懐かしい人たちの笑い声と笑顔があった
けれど・・・・・
しん・・と誰もいない神殿の列柱が殺風景に広がる
(・・・・・・)
ぱたり・・・・
伸ばしていた腕を下ろして足を止めた。
「・・・・・・・何故やめる?」
小さな寂しい溜息をつくと同時に横から声をかけられ、黄金の髪の少女は飛び上がるほど驚いた。
ひとつ隣の柱の影に体を寄りかからせて、腕組みをしながらこちらを見ている優美な人影。
「あ・・・・・」
誰よりも愛しい
わたしの・・・・漆黒のファラオ
目を見開き硬直している様子にふっと彼は可笑しくてたまらないといった笑みをこぼした。
それは誰にでもない彼のただ一人の愛しい者にだけしか向けない稀有な微笑みだったのだが・・・・
向けられた相手はその貴重さに気づいているのかいないのか・・・。からかわれたと思ったか、瞬時に真っ赤に恥じ入った風になり、慌てふためくばかりだった。
「やだ・・・・・メンフィス!!!」
「驚いたぞ。上手いではないか。」
「どうしてここに?! ・・・ひどいわ覗き見だなんて!!! いつから見ていたのっ? もうっ!!」
おもむろにこちらへ歩みを進め、華奢な腰を抱きよせる。
メンフィスは軽く口角を上げて面白そうに手を伸ばし、華やかに色づいた柔らかな頬をなぞった。
「はじめて見たぞ。そそっかしいそなたに・・・・こんな特技があったとは知らなかった。」
「そそっかしいだなんて・・・な、な、なによそれ!」
「怒るな。その通りではないか。」
「失礼ね。・・・わたしだって優雅な所もちゃんとあるわよ。」
「―――ふむ・・・・そのようだな。」
柔らかな唇に親指を沿わせ、その存在を確かめるように唇を合わせる。
メンフィスは神官との祭儀の打ち合わせが終わり宮殿に帰ろうとしてキャロルを探しに来た。
好奇心旺盛な彼女が控えの間にじっとしているはずもなく・・ メンフィスは既に「も抜けの空」となっていた部屋をあとにし、典雅なざわめきの響くこちらへ足を向けた。
男子禁制の女官達の場の入り口手前にルカやウナスが待機しているのを見つけて目的地に着いたことを確認し、躊躇もなく入り口を足早に通り抜ける。
王である彼の出入りを阻む場所など、この国のどこにもありはしない。
そして・・・・・・・目を奪われた――
広間の片隅
静かに金の髪をたなびかせてこっそりと舞い踊る、世にも美しい妃の姿に。
「何故急に踊るのをやめた?」
先程と同じ問いを繰り返して腕の中の愛しい妃の青い瞳を覗きこんだ。
「え・・・?」
「あのように楽しげに舞っていたのに・・・何故だ?」
「何故って・・・その・・・・」
ちら・・と横に目線をそらしながら、『ただ恥ずかしくなったから』とキャロルは小さく笑って返事を返した。
「・・・・」
うつむくキャロルの頭上でメンフィスの眼が一瞬すっとすがめられる。
キャロルの無意識の癖―――
機嫌を損ねそうだと感じたとき、不意にそなたはわたしから視線をはずして微笑む。
わたしが機嫌を損ねる主な原因といえば・・・・
踊りを止めた瞬間、キャロルが誰かを追い求めるような寂しげな視線を宙に彷徨わせたのが気になった。
わたしではなく・・・・さっきそなたは誰の幻影を追っていた・・・・・?
誰にその指を差し伸べていたのか・・?
かつて・・その軽やかな舞を最初に愛でていた者へ・・・・・・・・か・・?
(・・・・・・・また・・・あの『兄』か・・・)
ぎゅっ・・・・・
(?)
「・・・・・ね、ねぇ、メンフィ・・・ス?」
動けない・・・
ありったけの腕力で体がどんどん締め付けられていく
急にメンフィスの腕の力がみるみる強まり、息も苦しいほどにかき抱かれた。
「??!メンフィス・・・?!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キャロル・・・」
「・・・・あの・・」
「・・・・・・・・・・キャロル・・キャロル・・・・・」
「あ・・んっ・・・・」
しばらく二人はそのままじっと柱の陰の彫像のように抱きあったままだった。
抱きしめられたキャロルは勿論身動きできなかったが、抱きしめていたメンフィスもそのまま微動だに動かない。
ただ・・キャロルを腕の中に閉じ込めて・・・何も言わず、その息遣いを・・ぬくもりをずっと感じていた。
――温かい・・・柔らかな優しい肌・・・・・
・・・・愛しい・・・美神・・・・
そなたが私を誰より愛することはわかっているが・・
この苛立ち・・・
振り払っても振り払っても湧き上がるこの不安・・・
なぎはらうにはそなたをかき抱くことでしか・・・だがそれでも恐れは拭いきれぬ。
たとえ幻影であろうと・・私は・・・・・私は誰にもそなたを奪われたくは無いのだぞ!
「メンフィス・・・・・・?」
どうしてかしら?
不思議・・・
ただただ・・力任せに抱きしめられているだけで私・・・胸が高鳴ってくる。
苦しいけれど・・・・・・
腰と背に回された腕があんまりに力強くてのけぞりそうなほどだけど
どきどきして・・・
・・・・・メンフィスらしい・・・って思えてしまうから
でも正直ちょっと・・・痛いほどなんだけど・・・・
・・・・・いいわ。貴方だから我慢してあげる。
ずっとこのままでも・・・いい。
ふふっ・・もう・・・本当に強引なんだから・・・
くすくすっ
胸の中でこぼれた小さな笑声を聞きつけたメンフィスは、ほんの少しだけ腕をゆるめてキャロルの顔を覗き込んだ。
薔薇色の微笑みがこの上なく嬉しそうに自分を見上げている。
そしてその少し力が緩んだ拍子に細い両腕を伸ばし我が首筋にからめ、つま先立って自らの身を寄せて抱きついてきた。
「・・・・・キャロル・・」
甘えてくるキャロルのたったそれだけの仕草で、何故か心の中であれほどくすぶっていた不安が不思議なほど素直に溶かされていく。
ふわふわとした黄金の髪が頬を優しくなで包んだ時には、暗雲はどこかへ消し飛んでしまっていた。
なんと・・・・キャロル・・・
―――誠に愛しくて堪らない。おお・・・そなたを愛さずにはおれぬ。
ぐっ・・・・
尚一層閉じ込める腕に力がかかる
「っん・・・・・」
甘い吐息を押しつぶしながら口付けると、答えるようにキャロルの指先が何度も強張り肩先をたどった。
ジャァァァ・・・・・ン
ぱち・・
見開かれる青い瞳
ダンっダンっ ダダダダ・・・
シャーン シャーン ジャァァァーン
ふいに大きく鳴り響いた太鼓と女官たちのシストラム音に驚いて、キャロルは重ねていた唇を離して振り返ろうとした。
「キャロル・・・!」
「わぁ・・・・凄い・・・!!」
愛に潤んでいた娘の瞳が、瞬時に好奇心の輝きでいっぱいになる。
女官たちの舞いは、典雅な舞から躍動的な喜びの舞に練習内容が変わったようだ。
「・・・・・・・・・・・」
キラキラと嬉しそうに瞳を輝かせているのを眼にしてしまうと、さすがにもう何も言えなくなってしまう。
そっと腕を解いてやると、ふわりと肩衣をたなびかせて背を向け、今新たに始まったばかりの女官たちの舞に夢中で見入ってしまった。
「・・・・キャロル・・」
「・・なんて素敵・・古代の神々への踊り・・・・こんなに迫力があるなんて・・これが壁画で描かれていた踊りなのね・・・・・・この目でわたし本物をみているのね♪・・・・・・・嗚呼・・とっても綺麗だわ。ねぇメンフィス♪」
「・・・・うむ」
一歩すすめて妃の隣に並び立ち、舞踏を一緒に眺め見る。
キャロルの肩を抱いてやると素直に体を寄せてこちらへもたれてきた。
瞳は舞いへ向けたままだったが。
・・・・これが私の愛した女神の娘なのだ。
その心は一つの所に留まらない・・・・・流れゆく清流のように自由な心―――
澄んだナイルのような我が愛しい妃・・・・・
(ふっ・・・・)
「・・メンフィス?」
彼女を堰きとめることなど・・・出来ないのだと思い知る
だからこそ・・・輝きを増すのだということも。
何度自問自答を繰り返したことか・・・。
いつも結局同じところにたどり着くというのに。
自嘲気味な苦笑を浮かべていると、何事かとキャロルがようやくこちらを・・わたしの顔を見上げた。
少女のままの澄んだ無邪気な瞳――
どれほど年月を重ねたとて、その瞳は恐らく変わることなど無いのだろう。
その同じ瞳の輝きで・・・わたしを永遠に愛し続けよ
よいな・・・・キャロル・・・・
頭をなぜて髪を指にからめくしけずると、キャロルはくすぐったそうに身をよじって笑った。
「・・・・・・・・・そなた、あの者達と一緒に踊りたいのか?」
「え・・・?・・あの・・・・・それは・・・それはもちろん古代エジプトの祭儀の踊りですもの・・・・・・興味はあるけど・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・」
「ん?」
「・・『王妃様』がそんなことしちゃ・・・・・だめなのでしょう?」
「・・・・神への奉納の舞だ。神の娘のそなたが舞うならば尚良き献舞となろう・・・」
「そうなの?」
キャロルの瞳が期待を含めて飛びつかんばかりにはしゃぎだした。
「じゃあ習ってみてもいい・・・?ねぇ♪」
「・・・・・・・いや・・だが・・」
「?」
「まずは試験だな。・・・・わたしを納得させるほどの舞ができれば神に披露しても良いとするか。」
「ええ〜〜〜っ!試験?!メンフィスに?!!!」
「そうだ。不服か?」
「・・・・・・・・・だって・・・・・・・・一番ハードルが高そうなんだもの・・」
「ふん・・良く分かっているではないか。・・・まぁ、多少つまずいても私の前だけでなら許してやる。」
「!!!つまずいたりなんてしないわよ!さっき貴方も上手いって言ってくれたじゃない。わたしこれでもちゃんと古典バレエを習っていたんだから。だから少しは踊りの素質はあると思うのよ。じゃあ見てて♪」
「バレエ?」
「未来の世界での舞踏よ。ほら、こんな感じ。」
タンッ
クル・・クル・・クルッ・・・・・・
スタッ
軽く跳躍して2〜3度回転移動しながら優雅に静止ポーズ
それを何パターンか変化させて軽やかに踊ってみせる。
「!!っ」
「どう?」
昔取ったなんとやら・・で、キャロルは得意げにメンフィスを見上げた。
ところが・・・メンフィスは目を見開いて即座に低い声で拒絶を示したのだ。
「・・・・・・・・・・だめだ。」
「え・・・・?どうしてよ?我ながら今とっても上手に出来たのに・・・・」
「絶対にダメだ。その踊り・・・他の場では絶対に躍ってはならんぞ!!!」
「??????」
「そのように・・・肌を気にせず・・・・・・ ゆ、ゆるさぬ!!」
「え?」
ジャンプや回転ステップをするたびに、高く足首を伸ばすたび、その勢いに乗って軽く薄い衣装はふわふわと大きく翻った
軽やかに踊るたびに・・・
目のやり場に困るほど、その素足が・・・細く白いキャロルの足が膝上まで丸見えになっていたのだ。
踊る本人はミニスカートでも抵抗のない世界に育っているから特に気にする程のことではなかったのだが・・・メンフィスにとってはかなり(いや、相当)扇情的だったようだ。
心なしか・・・メンフィスの顔がほてっているように見え、やっとキャロルはその事に気づいた。
「・・・・ええっと・・・ でも・・バレエって・・こういうスタイルだから・・・あのぅ・・」
「そなたの・・・・神々の国では・・いつもこのような踊りを舞うのか?」
「神様の国じゃなくて、『未来の世界』よ。それに踊りだって全部が全部同じゃないわ。衣装も踊りに合わせてそれなりに・・・・・・」
(だけど・・・チュチュみたいな衣装のことは具体的には言えないわねぇ・・・・汗)
メンフィスは憮然としたままだ。
キャロルは肩をすくめてあやまった。
「・・・・・・・・分かったわ。『バレエ』はもう踊らないから。そんなに怒らないで。ね?」
「・・・・・・・・」
「・・でもどうしてダメなの?・・・・・宴会の席でも手足を露出してよくみんな踊っているじゃない。あれの方がよっぽど露骨だと思うけど・・・?」
「下賎な踊り子とそなたを一緒にいたすな!!」
「きゃあっ!!」
「・・・・まったく・・」
もうすこし自覚をいたせ・・・・
「メンフィス・・・」
「私だけのそなただということがまだ分からぬか」
(そなたを愛でることができるのは私だけぞ・・・他の者どもになど・・・)
熱い視線で見つめられ、キャロルは頬を染めた。
独占欲・・・・それは誰よりも愛されているという証拠・・・・・
それを読み取って・・
かすかな微笑を浮かべてキャロルは一歩下がる
コトッ
キャロルは優雅に片手を胸の前に、もう一方の片手を水平に伸ばして膝を折った。
客席に向かい礼をとるバレエリーナのように。
さらさらとまっすぐな金の糸が肩をすべりおち
ふんわりとした衣装が空気を含んで柔らかに地上に落ちる
「キャロル?」
・・・・自ら自分に跪くキャロルなど今まで見たことが無い
またそれはどんな諸外国の美姫達の礼法よりも優雅で美しかった。
「じゃあ約束するわ。私が踊るのは貴方の前だけって・・・。」
キャロルは跪いたまま視線を上げて青い眼を細めた。
「ねっ。」
「キャロル・・・・」
伸ばされていた方の手に導かれるように自分の手を差し伸べると、キャロルはその手を取って羽のように軽やかに立ち上がり嬉しそうに抱きついてきた。
「愛してるわ・・・・・。」
「―――キャロル・・」
メンフィスの手に指をかけて歩くと・・エスコートされているようで嬉しくて。
・・・・・・そう。私のナイト・・・ ・・・・・・あ!いいえ・・・・・・キングね。
ふふっ・・まるでデビュタントのよう・・。
自然とほころぶわたしの顔にチラと貴方が頭上から厳しい目線を流す。
ちょっぴり苦虫を噛んだような、たしなめるような・・
スキップを踏み出しそうな浮かれ気分をぐっと押し込めて、出来る限り上品な足取りへ。
神殿の女官たちの踊る広いホールの中心へ二人で向かった。
「まぁ!ファラオ!!王妃さま!!」
「・・・・妃が・・・祝祭に自ら舞いを舞う事を望んでおる。儀式の舞を一通り全て教えよ。そのほう・・厳しく指南をいたせ。」
「え?・・・・・お、王妃様が?!」
「あの・・・・・どうぞ宜しくお願いいたします。(礼)」
「これの出来が悪ければ容赦なく辞退させて構わぬ。王妃だからといって特別扱いは無用だ。神聖な神への儀式だからな。 ・・・・・それでよいなキャロル?」
「はいっ。ファラオ(にっこり) がんばります♪」
「・・・×!△!◇! ・・は、はぁ・・・・・・・」
あっけにとられていた指導役の女官は突然のことに目をぱちくりとさせていた。
指南役?
わたしが・・この王妃様の???
なんとか平静さを取り戻そうと息を整え、今突然わが身に降りかかった事態を頭の中で整理する。
目の前には今もにこにこと微笑むナイルの王妃様
遠めにしか拝したことがないファラオが自分に向かって『頼んだぞ』と言葉をかけて・・・
・・・・・・・・とんでもなく大役をまかされてしまった事だけは理解できた。
「・・・・・わ、分かりました(汗汗汗) ・・・では・・・・・・と、とりあえず明日から・・・で・・・よ、よろしゅうございますか?」
「ええ♪もちろんよ。急なことでごめんなさい。みんなの練習の邪魔にならないように気をつけるから。」
期限は次の祝祭まで・・・ということは
――10日程しか日数がないではありませんか・・・・・・・!!!
その日の夜、この女官は徹夜で王妃の為の練習内容をシュミレーションすることになったそうだ。
・・・・・・・・ただ、それは勉強熱心かつ物覚えの良い王妃のおかげで取り越し苦労となったらしいが。
シャン・・・・シャララララ・・・ン
華やかな音色 たなびく裳裾
古代エジプトの神々への感謝の舞・・・
綺麗な弧を描く指先の向こうには・・
メンフィス・・・
この世で一番大切な人
玉座に座す涼やかな瞳がわたしを追う
貴方の為に・・・・わたしは踊るわ
生ける神なる貴方の為に―――
この上なく美しく舞い踊る女神の娘を、地上の王は誇らしげに見つめていた。
いつまでもいつまでも愛しげに。
Fin.
愛の奥宮殿へ