愛の奥宮殿へ  

chapter 28

〜 酒2 〜



「お酒に酔うってどういうことかしら・・・・?」

気持ちよさげに杯をあげて、つい先ほどふわりと瞳を閉じたメンフィス
膝の上にのった整いすぎた顔をのぞきこみながら、ぽつりとキャロルはつぶやいた。

「きっと美味しいのよね」
「キャロル様?」
「わたしにはちっとも美味しくないんだけど・・・・」

くん・・と、杯にはいっているお酒のにおいをかいで、ちょっと顔をしかめた。
決して美味という香りには感じられない。
現代のお酒でも大好きだとはいえなかった方だから。
それに古代のものは原酒に近いし味も香りも洗練されたものとは言い難い。
それをメンフィスはいつもより上機嫌で嬉しそうに何杯も杯を重ねていった。

「苦いし、辛いし・・・・ どうしてそんなに此れが飲みたくなるのかしら?」
「・・・そうですね。わたくしにも良く分かりかねますが・・・なんでも気持ちがとても楽になるのだそうでございますよ。」
「楽に?」
「楽といいますか・・・何かしばられているものから解き放されるとか・・・」
「・・まぁ確かにそんな感じよね。」

本当に珍しいのだが、こんな風にくったりと甘えたような眠り方をするメンフィスをみていると確かに「そんな感じ」だ。またたびに酔った猫・・いや、ライオンか。


「泣いたり怒ったり、お酒を召し上がられるといろんな方がいらっしゃいますが・・・皆素直になるということではございませんか?そう思えばどちら様も皆とてもかわいらしいものですよ。」
「え?・・・・・・・・・」

---どちら様も・・・って誰?

ほほほと優雅に笑うナフテラが、なぜかその時ちょっと得意げであなどれなく見えた。

向かう所敵なし・・・
ナフテラって王宮全員の弱みを握っている気がしていたのだが、もしかして・・・

酒杯とナフテラをちらと見比べたところ、ナフテラはにっこり笑ってキャロルの手に残っていた杯を取り上げながらこっそりささやいた。

「ちょっと効き目が強かったかもしれませんね。ファラオは殊更このお酒にお弱いんですのよ。」
「・・・・!」
「それではおやすみなさいませ。」

目を丸くしたキャロルに更に優しい微笑みでナフテラはさらりと部屋を後にした。






Fin.




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