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うぇるかむ兄さん
【仲良しリード3兄妹+王様】
エジプトで最も危険なシーズンが訪れようとしていた。
兵士達はピリピリとした緊張感を隠せず、
宮殿中の者たちも戦々恐々とした面持ちである。
神官たちはその期間、すがるように神々に祈りをささげ、嵐の過ぎ去るのを待つのみ。
「・・・・や〜。来た来た。ほら、ようやく大魔王様のご到着だよ。」
「ロディ兄さん、なんてこと言うのよ!」
現代で言うと夏のバカンスの季節
エジプトでは酷暑の最も厳しい時期となるのだが・・・
この季節になると地獄の釜(?)が開くらしく、このエジプトで最も恐れられている現象がおこるようになった。
「・・・・・まったく・・・バカンスにでかけると決まってこちらに飛ばされる・・・」
「いらっしゃい♪ライアン兄さん。今日はどこからトリップしたんだい?」
「・・・・バーレーンだ」
「ねぇ、それ本当にバカンス?・・・この真夏に行き先がそれじゃあほとんど仕事と一緒じゃない」
「ライアン兄さんの場合、自社の石油コンビナート群の見回りが休暇なんだよ」
「??????」
「ほら、一人であちこち動いていても違和感ないだろ。あれも結構広大で壮観だからぼーっと眺めていたら心落ち着く風景なんじゃないかな?アメリカの石油王の一人としては。」
「・・・満足感っていうこと??」
「王様だってやたらと新都の建設現場に行くの好きじゃないか」
「ああ・・なるほどね♪」
「(カチン)お前たち、ごちゃごちゃ五月蝿いぞ!・・誰と一緒にしている(ムスっ)・・・ったく、来てしまったものは仕方ない。・・・そろそろかとは思ったが・・」
「兄さんの場合、どこからすっ飛ばされるか分からないところが難点だよね〜。」
「・・・・ロディ・・、お前・・・すっかり古代が馴染んでしまってるな」
「まぁね。お陰さまで。(微笑)」
出迎えであろう金髪の弟、妹の姿を交互に眺め、思わずほぼ自分と同じ背丈の弟に視線を止める。
・・・・昔から独特のファッションセンスではあったが・・・
「頭から花まで咲かせて目出度いやつだ。。今からサンバ・カーニバルでもやるのか?」
「あったらもっと咲かせてるよ♪ああそうだ、これ、色違いのもあるんだ♪兄さん一緒にお揃いで着替える?」
「いらんわ!!」
床につきそうなほど長い袖飾りをびろろんと得意げに見せびらかす弟。
長兄はピシャリと一喝でなぎ倒してみせた。

「どうせバカンスなんだからたまにはライアン兄さんも羽目はずしたらいいのにさ〜。こんな感じも意外と着てみたら似合うと思うよ」
「お前の年がら年中お祭り能天気と一緒にするな。誰がそんな度派手な服・・・」
「だから『たまには』って言ってるじゃないか(^^)。 こっちには誰も知り合いなんていないんだしさ。・・・あ、恥ずかしいならあっちでこっそり・・ほらほら、ね、絶対似合うよ〜♪」
「莫迦!勝手に着せるな!!!!」
さっそく始まった兄たちの和やかな(?)つっこみあいに末っ子のキャロルはくすくすとはじけるように笑って間に入った。
「さあさあ、積もる話もあるだろうけど早く中に入って! 待ちくたびれて私すっかり喉が渇いちゃったわ!」
「言われるまでもない。」
さらりと柔らかな金の髪をなで、ライアンは一瞬で溶けるほどの優しい表情を見せた。
愛しい愛しい誰よりもかわいい妹が嬉しそうに抱きついてくる。
「積もる話ならおまえにいっぱいあるぞ。・・・・元気だったかキャロル?危ないことはしていないな?(ぎゅ〜っ♪っと抱きしめ、おでこにチュウ)」
「ええ♪ うふっライアン兄さんも♪(じゃれじゃれ) 元気そうで良かったわ♪」
「あ〜、いいなぁ。僕は僕は?兄さん?」
「・・・・男を抱擁する趣味はないな。投げ飛ばされたいなら話は別だが? ん?」
「冗〜談だよ。(^^)」
リード家長兄、ライアン・リード到来―――
青い瞳の仲良し3兄妹が揃うこの季節
美麗な風景に見惚れる半面、嵐の到来も避けられないのだと嫌でも再確認することとなる。
「・・・・まいられたか」
「!」
「あ、メンフィス!」
「不埒にもわが妃を・・・我が目の前で抱き取るとは・・・・・相変わらず命知らずなことだ」
「別にとやかく言われることじゃない。(ほっぺにチュ)」
「(わなっ)・・・・よほど叩きのめされたいらしいな。(指ボキ)」
「ふんっ 実の妹を 『普通に』 可愛がってなにが悪い!」
「あのね、メンフィス、た、ただの習慣だから…」
「そなたは黙っておれ!」「だまっていろキャロル」
「今日という今日こそ決着をつけてやる」
「ほぉぉ・・・吠えづらかくなよ。」
「ちょっと兄さん!メンフィス!!」
黒いスーツと赤いマントが双方派手に後方へ飛び
いきなりどんがらがっしゃんとリングの鐘(ゴング)が鳴り響いた。
「あ〜あ・・・早速始まったね。」
「大体いつも現れる場所が悪いのよ・・・どうしていつもメンフィスの湯殿の前の庭なの?もうちょっと遭遇しにくい所だったら良かったのに。」
取っ組み合いに手をこまねきながらキャロルが溜息をついた。
「さぁねぇ。『仲良しさん』な二人に対するありがた〜い『神様の思し召し』じゃないの? 泥だらけになってもすぐ洗えるし」
「そういう冗談は笑えないわ」
「・・・・・こっちは兄さんの出現する日の予測がしにくいから気が気じゃないわよ。なんとか鉢合わせにならなようにって思って待ってたのに・・・」
「そんなの無駄無駄。どうやったってこっちに来たら顔あわせるんだし。あの二人、会えば喧嘩になるのはお決まりなんだよ」
「・・・・・・人事みたいに言わないで。・・・・大体、最初の時なんて本当に最悪だったんだから!」
「ああ、ライアン兄さんって一番最初こっちに飛ばされて来た時って王様の入浴中にいきなりトリップアウトしたんだっけ。キャロルがその騒動の第一発見者だったんだろ?なんでも王様、真っ裸で取っ組み合いしてたんだってね(くすくす)。それホントすっごく見たかったな〜。『生』古代オリンピアじゃないか(笑)。」
「笑ってないで早く止めてよ!」
「いやだね。あんな凶悪な猛獣同士の喧嘩なんかほっとけばいいよ。僕も怪我したくないし。折角のこの衣装も汚れるじゃないか。お気に入りなんだよコレ。」
「ロディ兄さん!」
「だ〜か〜ら〜、触らぬ『神』に祟りなしだよ(笑)。お互い素手なんだしさ。心配しなくてももう30分ほどしたらこの暑さで2人とも息切れしてくるだろうし落ち着くって。・・・いつもの事じゃないか。あ、僕アイスティー用意してくるよ。キャロルも飲むだろ?」
「ちょ、ちょっと待ってったら!!そんなこと言ったって〜〜〜!!!だんだんエスカレートしてきてるのに見てられないわよ〜〜っっ!!ロディ兄さんったら〜〜!!(おろおろ)」
「ああ、お付きの皆さんお騒がせして悪いね。お手数だけど後で兄の分の着替えの用意もお願いします。お風呂もすぐ使えるように水はっておいてもらったほうがいいね。え〜と・・・それからっと・・・はい、キャロルはコレ担当ね。じゃ、あとはよろしく。」
ぽんぽんとロディが叩いてキャロルに渡したのは小脇に『事前に』用意されていた救急箱。
ウインクしてすたすたと後ろ手に片手を振り、ロディは趣味の紅茶を淹れに優雅にその場をあとにする。
「に、兄さん!」
「終わったら二人とも脱水しないように先に薄めた塩水飲ませるんだよ〜。」
「ええ〜っっ!!!」
「そのうち勝手に動かなくなるからその時にね。大丈夫大丈夫。」
「そ、そんな!全然大丈夫なんかじゃないわよ〜っっ!!」
「ほう・・・・これはまた・・・・ 派手に立ち回られましたな」
ベッドの上でぐったり仰向けに倒れていたメンフィスとライアンの顔を交互に見て、感慨深げにイムホテップがつぶやいた。
毎度おなじみの光景ですな・・といった老賢者の呑気さに、王妃の眉がビシっとつりあがる。
「感心してないで早く手伝ってちょうだいイムホテップ!湿布が足りないのよ!薬草は持って来させているから追加を早く煉って!! ナフテラ、メンフィスの包帯そっちの腕からまわして!」
「あちっ!!ぅ・・キャロル・・・・もう少しそっとせぬか・・」
「もうっ!!なにがそっとよ!!!メンフィスもこんなにあちこち内出血させて!!!!ひどいわ! 顔までボコボコじゃないの!!」
「おやまぁ・・・折角の特注アルマーニもズタボロだ・・・可哀想に」
「ロディ兄さん!服の心配よりライアン兄さんの体を心配してよ! 骨どこも折れてないわよね?」
「うん。ちゃんと曲がってるから大丈夫そうだよ。自分でも歩けてたし。・・・吐き気も立ちくらみもしてないよね?ライアン兄さん。」
「ああ・・・ うっ!痛っ!! ・・・・まったく・・あいつはどうしようもない野獣だ・・」
「!!!・・・なんだと!!」
「はいは〜い、ストップ、ストップ。2回戦は手当てのあとでね。・・・・と、兄さん口あけてみて。・・・・ああ・・ちょっと口の中切ってるか・・・。次からはちゃんとマウスピースしておきなよ兄さん。」
「『次』ってなによ、『次』って!!!何がマウスピースよっ!!もうみんな信じられない!!!(ぎりりりりっっっとメンフィスの包帯縛り上げ中)」
「キャ、キャロルっ!!やめいっ あつっ!!!」
「毎回毎回、いい年して殴り合いなんて!お互いにいい加減にして頂戴!二人とも!!」
むっつりそっぽを向き合う両者の顔は、滅多に見られないほどの青あざの群れ。
メンフィスもライアンも美貌を誇る端正なパーツが妙に膨らんでゆがんでいた。
「ほんとしかたがないよなぁ・・・(笑) 腫れが引くまでちょっとじっとしてなよ。ほら、ライアン兄さんも冷やすから頭動かさない。」
湯殿の隣に急遽用意された救急看護室
ロディの言ったとおりにというか、暑さと疲労と両者同時のパンチの衝撃で動けなくなったのは予想より少し時間のかかった1時間後。
体力を消耗しきった猛獣2匹を、それ今だ!とばかりに周囲が抱えてベッドへ連れ込んだ。
部屋の中では一斉に二人の応急手当にとりかかり騒然となる。
かたやファラオの英才武芸、かたや米軍キャンプ仕込み・・・徒手の型は全く違うのだが・・
大したものだと思うのは、異なる武術を叩き込んでいる二人が本気でやりあっているにも関わらず、そりが合わなくても、故意に急所を狙うことだけはしていないということだ。
あくまで「勝負」という前提で、命に関わる危険な領域にだけは踏み入らない。
話し合いなどしたこともないのに格闘のルールを暗黙の了解でぴたりとお互い守っているということである。
本気であってもこの二人なら「大丈夫」
それが分かっているからロディも放っておける。
・・・とはいえ、やっていることは殴る・蹴る・どつくの完全無差別級フリーバトル。
素手だということ以外は何でもありな無茶苦茶な喧嘩だから、互いに危険を避ける受身や反射神経が研ぎ澄まされていないとできないこと。
ミヌーエもウナスも武人。そのあたりの事は二人のやりあいを目にしたところで状況は了解できた。
騒ぎを聞きつけ飛んできたものの、やはり率先して止めに入ることはしなかった。
流石にウナスは毎回のことながら顔から動揺の色を隠せなかったが…。
(―――あとの手当てがとにかく大変なんだけどね)
「まったく・・・なんだかんだ言っても 『誠実』 だよ。二人とも。」
「・・・・・誠に・・・・・そうですね。」
相槌をうちながらくすりとミヌーエは笑った。
こうやってロディと一緒に手当てにとりかかるのも何度目だろうか。
すっかり役割分担もできあがっていて、それぞれがそれぞれに手馴れてきている。
ロディもぺたぺたとハーブの湿布薬を布に塗りつけながら笑った。
「仲たがいしているように見えて、実は遠慮なく全力出せて・・・意外と楽んでいたりして?」
「お互い気が合われないのは確かでしょうが・・・・ですが本気でここまでファラオとこんな事ができるのは、この世の中広しといえど、ライアン様しかおられないでしょう。」
「そう?・・・・ミヌーエ将軍でも無理かな?」
「・・主君の顔を、拳(こぶし)で殴る勇気は流石にわたくしにはございません。」
「あははははっっ 全くだ。」
あらかたの応急手当てが終わって一段落してきたころ、ロディとミヌーエがのほほんとそんな談笑をしているのを聞きつけたキャロルは湯気がでるほど顔を真っ赤にして怒り出した。
「何言ってるの!!このボッコボコの喧嘩のどこが誠実なのよっ!!あんなに頼んでも誰もちっとも止めてくれないんだからほんとどうかしてるわっ!!! もう!みんなの莫迦っっ!!!」
「・・・て言われてもねぇ・・・(苦笑)・・無駄なケガ人が増えるだけだと思うよ」
そう。。。。もはやこれは儀式のようなもの。
魅惑的な一族の集合はいつでもこの長兄とファラオの決着のつかない試合から始まるのだ。
「手出しなんかできるわけないじゃないか。・・・あれがあの二人なりの挨拶なんだからさ。(^^)」
Fin.
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