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絆
【〜 総帥と策士の場合 〜】
(うぇるかむ兄さん 続編 ・・・・ その後の風景ということでお読み下さい)
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「はぁ? ガラクタを集めてるアホがいるだと?」
「へぇ、それも欠けたツボや割れた皿にまで砂金をはらうっちゅうバカなんでさぁ。ここいらではちょいと有名ですぜ。」
「・・・・どこのどいつだそのアホは」
「坊ちゃん風な貴族っぽいヤツでしたがね。」
「見たのか?」
「あっしもこのあいだちょいとご相伴にあずかりやしたんですよ。ほれ、どうです?」
「む・・・・・」
小袋から大粒の金が転がり出る
小麦が大袋で何袋も交換できそうなかなりの上物だ。
「ふら〜っと横で立ち止まるんで、何だろうと思ったら、いきなりあっしが持ってた酒瓶を譲ってくれって言うんでさぁ。それでこの金の粒でしょう?もう訳分からんですぜ。(笑)」
「そいつぁ相当のカモじゃねぇか。この町にしょっちゅうそいつは出入りしてやがるのか?」
「ああ。そうさねぇ・・・親分の所ぐらい派手に店出してりゃ、そのうち向こうから寄ってきますって。・・・・ひっかけますかい?」
「・・・まぁ、それは相手次第だな。・・・本当にどうしようもねぇボンクラならガッポリ搾り取ってやるって。・・・見かけたら知らせろや。」
「へへへ。そんときゃ、情報料って事ではずんでくだせぇよ。シュワーム親分。」
「分かってらぁよ。・・・だがガセだったらお前からぶんだくるぜ」
「おお恐、・・・じゃ、こいつは前月のアガリでさぁ。」
「おう。」
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ずらりと並んだ壷・壷・壷・・・・
皿に水差し、食器にカップ・・・
部屋に入るなり足の踏み場さえない状況に一瞬絶句して声を失う。
「・・・・・・なんだこの有様は?前にはこんなになかっただろうが」
「ああ、なんかね、あれからもぼちぼち集めてたら増えちゃってねぇ(笑)。これは昨日の掘り出し物♪ う〜ん・・・でも確かにちょっと手狭になってきたかな〜。」
所狭しと物品が陳列されている部屋の向こうに、さらに追加して絵皿を飾るように並べている弟がいた。
「その収集癖はどうにかならないのか?現代ならとにかく・・・古代で集めても、あとは誰も引き取り手なんかないんだぞ。」
「いいんだよ。べつに永久に残したいってわけじゃないし後のことなんて。・・・趣味ってそんなものだろう?」
「お前の場合いつも極端すぎるんだ。」
手近な壷を持ち上げてみると、底にひびが入っていた。
となりの皿は端が欠けている。
どだい実用品として『使えるもの』ではない。
「なんでもかんでも、手当たり次第に・・・・ どこがいいんだ?こんなガラクタ・・・・・」
「僕には宝の山だけどな。古代美術品としては厳選した一級品ばかりだよ。そりゃライアン兄さんに分かってくれとは言わないけどさ。」
一つの水差しを愛しそうに撫でてロディは優雅に微笑んだ。
「綺麗な青だろう?ファイアンスの水差しだよ。この優美なフォルムなんて最高だね。文様も変わっていてエジプトっていうよりペルシャっぽいところが格別さ♪ほら、浮き彫りで葡萄唐草な模様も入ってる。」
「・・・・・・取っ手が少し欠けてるが?」
「鑑賞用だから構わないよ♪」

よほどお気に入りなのか、水差しの胴にキスまでして磨いている。
「それにねぇ・・・・・(にこっ)コレクションついでにどうも面白い事も釣れそうなんだ。」
「・・・ん?」
「ふふ・・・・世の中って、結構芋づるで面白いね。現代も古代も、『人』のやってることなんて、み〜んな似たようなものなんだな〜ってつくづく思うよ。」
「なんだ?」
「なんでしょう。(にこっ)」
クイズのようにおどけてみせる。
「・・・・・・また危ない事に首をつっこんでいるのか?」
「さぁ?どうだろう? まだちょっと喰いついただけだから、大きさはよく見えてないんだけどね。釣れてくれると面白いんだけど・・・」
なにを釣りあげる気だろうか?
危ないな・・・・・
こんな風な笑い方をする時は特に要注意だ。
既にもうあたりがついてかなりの行動を起こしているのは間違いない。
ちょっとどころではなく、もうこれは獲物の狙いをさだめている蛇の眼だ。
外見何も変わらないが、弟の瞳の奥でチリ・・と潜む僅かな気配で・・僕にはそれとなく分かる。
「誰だ?弱みにつけこんで手玉に取る気か?・・・・女・・じゃないな? 坊主か貴族か?」
「ん〜・・・・多分、こっちでいう盗賊か大泥棒ってやつじゃないかな? 」
「・・・! なんだと?!」
ロディは優雅に口角を上げる。
ひらりと一瞬、空色の瞳を意味深に、視線を流してひらめかせた。
「持ってるものが普通の商人にしてはどうもおかしいんだよね。・・・お友達になっているかどうかは次回のお楽しみということで。」
そして、
チーン・・と、ある小さな金属のカップをロディは軽く指先で弾いてみせた。
遠めに見ても凝った作り
青銅だろうか? 古代の物品に対する審美眼についてはロディに対抗するだけ無駄なんだが・・・
それは素人の僕から見てもかなり『良い』もののように見える。
呑口に装飾が多く、実用というより、飾り物のようだ。
どちらかというと祭儀用・・・・
・・・ということは・・
『その手のもの』ということでなら・・、僕もどこかで見たような気がしないでもない
「おかしいものというのは『それ』か?」
「まぁね。・・・・知らないふりして譲ってもらったんだ。この連続模様・・・たぶんメソポタミア方面のお墓から出たものだと思うよ。」
なるほど・・・・盗掘された『副葬品』か。
「ろくでもないな・・・お前ってヤツは・・・また裏筋ルートの人間と渡りをつけるつもりだな?・・・悪い病気が再発したか・・・」
「いやだなぁ。(にこっ)人脈は偉大な財産だろう♪ ここぞというときは掘って掘って掘りまくれってね!これはお父さん仕込み」
「言っておくが・・・それは量より質が大事なんだぞ。」
「ああ、そのあたりは問題なさそうだよ。財力・機動力・統率力、ともに及第点さ。親分さんの顔はかなりのコワモテだけど・・・、ん〜、あれもなかなか任侠気風でいいかもしれない。」
「・・・・・・ったく」
困ったヤツだ・・と、苦笑した。
「なにが良く分からないだ。・・・もうとっくに黒幕に『会って』るんじゃないか」
「あはは。まぁ・・・ね。ちょっとこのあいだ直接『本人』から買い物しただけで。 でも、まだ『釣りあげてない』からさ。 ・・・・関わるのは反対?」
「いや・・・」
それを否定するつもりはない。生き残る為に必要ならば、どんな事でも利用して全力で立ち向かえというのが僕の主義だ。
まして、こんな古代の無法地帯で変な立場に立たされてしまっているのだ。
どんな形であれ、味方や手駒は多いに越したことはない。
「・・・怪我だけはするなよ。」
「・・・うん。」
この弟に見る目があるのは大いに認めているし。
それに・・・相手が大物であればあるほど仕留めることに燃えるタイプなのだ。
勘もいい。
ただ・・・・それは簡単に気楽に為しているわけじゃない。
ポーカーフェイスはほとんど崩さないので一見そうは見えないのだが、その執念というかこだわりというか・・・かなり必死に何でも全力投球して事を成しているのだ。
実際、ロディは・・・必要だからと何カ国の言葉を今までに習得したことか。
何もしていないよ。・・と、涼しいふりをしながら、隠れて徹夜している『がり勉』の典型で。
だから、無理をしすぎても限度を考えないし気づかない。
期待される以上の事をしないと自分が納得しない性格なのだ。
誰に認めてもらわなくても自分がこだわる域までやらないと気がすまない。
今だって協議とやらが終わって疲れているはずだろうに、さっきもわざわざ通路で行き違う宮殿内の人々にまめまめしく挨拶を交わしていた。それもそれぞれに「名前」を呼んで。
僕に言わせれば、こいつは涙ぐましいほどの努力家だ。
ところが―――誰もその一生懸命さにほとんど気づかない・・・。
「ふふっ」
「なんだロディ?にやにやと・・・」
「・・・・・だから・・・兄さんは好きさ。」
「は?」
ロディはなぜかとても嬉しそうに微笑んだ。
・・甘ったれた「弟」の顔。
不思議なことに、ロディは昔から自分に対してだけは急にそんなじゃれ付くような顔を時々見せる。
・・・で、その上、そのあと本当に背後からじゃれつかれた。
でかい豹でものしかかったかのように。ずっしり。
・・・・・背中が重い。

「そうやって、めいっぱい心配してくれながら・・・いつも全面的に応援してくれるところがね。・・・普通なら止めるよ。」
「止めたところでお前やるだろう?なら無駄な努力はしないさ。 好きにしろ。」
「うん。」
かえってきた天使のような微笑
お前のそういう所はかわいいと思わないでもない。
ロディの人当たりの良さは天賦の才能だ。
言葉だけでなく・・・その綺羅綺羅しい見た目も効力を発揮して、とにかく誰からも愛されやすい。
本当に『誰からでも』。
その魅力のせいで、現代でも・・軽く裏社会の人間たちからまで『おまえは無二の親友だ』と言わせてしまうような弟だ・・・。
裏街道の顔の広さでいうなら、ロディは 「蛇の道は蛇」 そのもの・・・・。
敵対していようが、たとえ現場が紛争中だろうが・・・先方にどこをどう繋ぎを取るのか、ロディを通して目標にコンタクトできなかったという事例は聞かない。
だから、本業の考古学研究者として以上に、ロディに連絡を取りたいというアポイント依頼はひっきりなしだ。
おかげで・・こいつにはやたらとご大層な綽名がついた。
『闇の使徒』・・・とかいう名前だそうだ。
現代の「ある筋」ではロディはそう呼ばれるようになっている。
その上、心理戦に長けたこの弟は何かと裏工作に手腕を振るうことを好む。
一種のゲームのように、そ知らぬ顔で危ない橋をふらりと綱渡りしてみせる。
そんな時、ロディは信じられないほど冷淡になれる側面も持っている。
後ろに広がる得体の知れない冷血さも僕は知っている。
でもどちらの顔も間違いなくお前そのものだ。
どちらもひっくるめて全部お前でしかない。生まれた時から見ているお前に裏も表も区別などあるものか。
・・・それに・・・お前はいつも「自分自身の好きでやっている」というが・・・・本当は・・・・それだけじゃない。そうだろう?
「お前ほど見ていて恐いヤツはいないな。・・・ったく心配かけさせられるのはキャロルだけにしてくれ。・・・・あまり古代でまで命張るような事はするんじゃないぞ。僕はこっちでお前を援護してやる事はできないんだからな。・・忘れるなよ、『お前』は『二人』といないんだ。」
「・・・うん。(にこっ) ・・分かったよ。兄さんがそういうなら・・・・・気をつけるようにする。」
「・・・・・? どうした? 今日はやけに素直じゃないか」
「素直だよ。僕はいつでも。・・・兄さんには嘘ついたことなんかないと思うけど?」
「そうか? そいつは知らなかった。」
「ひどいな。・・・これでも僕ってライアン兄さん第一主義だよ。」
「ああ。そうだったな。(ふっ)・・・・・お前にはいつも感謝してるよ。」
「・・・・どうしたの?兄さんこそ今日はやけに素直だね。(くすっ)」
「どうもこうも・・・・」
「なに?」
「いや。。。」
久々に飲んだロディの紅茶
・・・凝り性なだけに淹れ方も抜群だ。
「旨いな。・・・・やっぱり紅茶はお前が淹れてくれるのが一番だ。しかし・・・これもエジプトでつくったのか?」
「うん。原木はインドの商人から色々取り寄せたんだ♪」
「ほう?よく枯れなかったものだな。」
「シナモンもあるよ。・・・・チャイにしてみる? それともブルーベリーのジャムの方がいい?」
「・・・・・意外とグローバルじゃないか・・。古代でなら、どれも取り寄せるのに相当時間がかかるだろう?」
「そんなの、象に比べたらかわいいお取り寄せだよ。」
「象?」
「この王宮にインド象がいるんだ。最初見たときは僕も目を疑ったよ。しかもそれがインドの国から届けられてきたキャロルへの貢物だって言うんだから流石に僕も驚いた(笑) 実際飼ってるんだよ奥の庭に。今度見てきたら?かわいいよ。『パオパオ』って名前つけたんだってさ。」
「・・誰が?」
「そりゃもちろんキャロルがさ。王様だとでも思った?(笑)」
「莫迦言うな。・・・・・しかし象がペットか。 頼みもしないのに勝手に物が贈られてくるのは向こうでもこっちでも変わらないようだ。・・・・全く大した『姫様』だな。我が家の姫君は。(ふっ)」
「ほんと最強だね(くすくす) ・・・それにしても兄さん、今日は随分ご機嫌みたいだね。」
ふわりと僕に向けられたライアン兄さんの真っ青な瞳。
黒い髪のせいか、その瞳は3人の中で誰よりも濃い青色に見える。
「・・・・・片腕がすぐ隣にいるからな。 ・・・多分、・・・今、お前が側にいてくれて嬉しいんだよ。」
「・・・・(にこっ)・・・僕もだよ。」
兄さんのコバルトブルーの深い深い青
ずっと見てると吸い込まれそうに感じるんだ。
どこか少し恐く感じるほどだけど、でも・・・・
「帰ったら馬車馬のように働いてもらうから覚悟しておけよ。」
「了解。・・・けど、それまでに会社傾いてたら見限るよ」
「僕を誰だと思っている。心配するな。王手の切り札はちゃんとお前に残しておいてやる。」
「え〜! それ絶対エースじゃなくてジョーカーっぽいなぁ。切り札っていったって『美味しい取引』じゃなくて『面倒ごと』だろう?」
「よく分かってるじゃないか。」
「・・・鬼アニキ」
「ふんっ 『闇の使徒』にはぴったりの仕事だろう。」
でも・・・・・
この青は・・僕にとって誰より深くて広いんだ。
自分が心底安心していられるのは・・・やっぱりこの大好きなライアン兄さんの瞳の側だ。
「まあ、しかたがないか。『大魔王様』の為ならば。(笑)」
「こいつ」
ピンッとロディのおでこに指をはじき、ニッと意味深にライアンは笑った。
リード総帥とその懐刀がタッグを組むと、まとまらない商談はないというのは、現代ではかなり有名な話だ。
「・・・お前は確かに僕のジョーカーだよ。しかもオールマイティのな。・・・・・だから・・・・勝手に消えたら許さないぞ。」
「イェス・サー。・・・・分かってるよ。・・・僕にとっての本当の王様は兄さんだけさ。キング・ライアン。」
互いの口元に浮かんだ微笑
古代の陽だまりでの一幕。
この近くを通りがかることがあったなら、現代でも滅多に聞けない、リード家双璧の仲の良い笑い声を聞くことが出来ただろう。
Fin.
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