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ハグ&キス
【仲良しリード兄妹のぷち日常】



「まあ・・・・」
「ほほほほほ・・」

女性の声・・
それもとびっきり上品で艶のある種類の。
どこか高級なサロンで聞くような・・・

「ふ〜ん。それは興味深いお話ですね。今度機会がありましたら是非お会いしたいとお伝え下さい。」
「あら、うちの主人など恥ずかしくて。すぐに粗相をしてしまいますもの。殿下にお目にかける事などできませんわ。」
「おや、これはよほど素敵な旦那様らしい。これはなおさら貴女を魅了したという武勇伝などお聞かせいただきたいものですね。(にこ)」
「嫌ですわ、ロディ様ったら」

輪の中心にいるのはやっぱり兄さん。
大天使のように優雅な出で立ちで、周りの女性たちに微笑んでいる。
時折、その婦人たちの手をとり、手の甲に唇を寄せたりもして・・・。

いつ見かけても、絶対誰か取り巻きがいるのだ。
それも決まって「美女」と称される女性達。

現代でも古代でも・・・全然状況は変わらない

「・・・!  キャロル?」
「・・・・・・・・まあ、王妃さま!」
「何してるんだい?そんなところで。こっちにおいでよ。」

そう、こんな子ども扱いなところも・・・・
ぜんぜん変わらない。












「兄さんって蜂蜜みたいよね。」
「・・・・・・・?・・・なんだい?それ」
「綺麗な蝶々がいつもたくさん寄ってくるもの。よっぽど甘くていい香りがするのね。」
「そうかな?・・・・嗅いでみる?」

がばっ

「きゃっ!」

ロディはそっぽを向いていたキャロルに後ろから腕をまわして、ストンと引きおろすように自分の膝の上に座らせた。
チョコンと膝の上に座らせたキャロルの髪をひっぱってはクルクルと指に絡める。

「な〜にすねてるの?」
「すねてなんかいませんわ。」
「そうかな〜?」
「・・・・」
「ほら、スコーンだよ。」
「ふんだ。お子様じゃないのよ。お菓子なんかで釣られるもんですか。」
「釣られてくれなきゃ僕が寂しいじゃないか。だってこれキャロルのために焼いたんだからさ。レーズン入り。」
「・・・」
「結構日持ちするから多めに焼いておいたんだ。後でナフテラさんに預けようと思ってたんだけど。ほら、いい出来だろ?干しイチヂクとナツメを入れてみたのもあるよ。こっちは侍女さん達に試食してもらったら大好評だったんだ。」
「へ〜ぇ・・・・・侍女さん達にねぇ。。。。」

じと・・・ (そりゃあ大好評だったでしょうって・・色々な意味で。)

「キャロル(にこっ)・・・何か用があったんじゃないのかい?」
「・・・・・兄さん、明日にはまたギザに帰っちゃうんでしょう。」
「うん。・・・お仕事だからね。」

ぽんぽん
かるくおでこを叩き、そのまま髪をくしゃくしゃと撫でて笑う。

「・・・・・・・・」

そういうところが・・・
昔のまんまの『子供扱い』で、時々悔しくなるんだってば。

わたし・・・もう『王妃さま』なのよ。
一流の・・・・貴婦人に仲間入りしたんだけど・・・・。

いつもジェントルマンなロディ兄さん
わたしにだってちゃんと大人のレディ扱いしてほしいわ。


「・・・きっと、下エジプトでも同じなんでしょうね。」
「え?」

「あんなふうに「とりまき」に囲まれて、わたしと話してる時とは全然違って。。。小さい時から兄さんの周りは別世界だったもの。」
「キャロル・・・・」

『声』が違う
ちょっと素敵にカッコいいテノールの響き。
あの声がロディ兄さんの声で一番好きなんだけど・・・私には使ってくれないのよね。
不満といえば・・それが一番不満。


「いつでもどこでも、ロディ兄さんってモテモテなんだから。」
「・・・・モテモテって・・・」
「現代でも綺麗な女の人ばっかり回りにいたし。とっかえひっかえ・・・古代でも『プレイボーイ』は変わらないのね。」
「プレ・・・・あ、あのねぇ・・・・・・」

びしっと人差し指をロディに突きつけて、キャロルの眉が微妙につりあがる

「兄さんの女性好きは今更治せないだろうけど、手当たり次第はやっぱり良くないわよ。(むすっ)」

ロディは目を丸くして苦笑するばかりだ。

「まったく・・・失礼だな。僕はただ全ての女性に親切でありたいだけだよ。・・・せめて『フェミニスト』と言ってくれないかい?」

(・・・たぶん・・・こっちで寄ってくる女性陣の場合・・『王様の陰謀』もあるんだけどなぁ・・・)

「女性のお相手をするのは実際本当に大変なんだよ。前にも言ったけど、僕はキャロルぐらいのお転婆な方が気楽でちょうどいいんだって。」
「な、なによそれ〜っっ!!失礼しちゃうわ!」
「素直に褒めてるの。それにねぇ、気取ったマダムや美女達の相手をするのはきっと僕よりライアン兄さんの方がよっぽどお得意だよ。」
「もう冗談言わないで。ライアン兄さんは『仕事が恋人』みたいな堅物なのに。『女はいらん』の一点張りで、超女性嫌いだし(←断言)」
「え! 違うって・・あれは・・・」

(・・・・・あれは『キャロルがいるから』もう女はいらない・・・・って意味でさ・・・)

「・・それにくらべて(じと・・)ロディ兄さんの女ったらしぶりは時空も越えて万国共通なのね〜。ほとほと感心しちゃいましたわ。」
「おまえねぇ・・・、僕をなんだと思ってるんだい?」
「落とせない女性はいない『マダムキラー・ロディ』でしょう? ・・カイロ学園でも相当有名だったわよ。」
「おい・・」

そりゃあんまりだよ・・と、本気で困り顔をして溜息をつく

「あのねぇキャロル、・・ったく人をそんな節操無しみたいに決め付けないでくれないか?それにさ、大体ライアン兄さんだって・・・女性嫌いなんじゃなくて、女性に対する気配りの時間がとれないだけだよ。やろうとおもえば本気で周囲が仰天するほど豹変するんだから。」
「うそばっかり。そんなのありえないわ。」
「うそじゃないって。」

冷徹鬼社長ライアン…

普段、歯にものを着せずにズバズバ切り込み、誰に対しても容赦がない。
確かに、いつでも彼の周囲はブリザード状態なのだが・・・・

クライアントを味方につけるために必要なら、冷血大魔王が気味が悪いほど笑顔になったりもする。
・・・歯の浮く恋話も、社交ダンスも・・・場合によっては寒いジョークさえ・・
なんというのか・・この人にしては微妙にありえない姿に変貌するといったらいいのか・・
実に華麗(?)になんでもこなしてみせる、妙に几帳面な一面を持っているのだ。

実際この両側面を目の当たりにするとどれほどギャップをうけることか・・

その差を直に目にした者は、あまりの格差(不気味さ?)に誰もがまた氷点下に凍りつく。
「氷のライアン」とあだ名される理由は2つあるのだ。

―――まあ、・・・・あくまで、『事業』で必要なら・・というところが鍵ではあるけどね・・・。

「実際僕は兄さんほど忙しいわけじゃないからね。兄さんの代わりに・・というか、女性関係は面倒だからって押し付けられて、しかたなくその手の『社交分野』を僕が担当していたわけで・・・数さえこなせば嫌でも『慣れる』よ。・・でもホント、それなりに大変なんだよ。」

くしゃっ・・

「・・・・・・」

もう一度額に触れてキャロルの前髪をなぜる。

「まったく・・・・気楽にのんびりしていられるのは僕もライアン兄さんもキャロルの前ぐらいなんだよね。知らないうちに誰かさんのおかげで、王様の・・・ロイヤルファミリーってやつの一員になっちゃったからねぇ。まさかこちらの世界でもこんなご接待担当をやらされるはめになるとは思わなかったよ。あっちでもこっちでもなぜか『そういう仕事』が僕の仕事になるらしい。・・・・そんなお星様の下の運命なのかなぁ?」
「大げさだわ。・・・好きでやってるくせに。」
「そうでもないよ。ホントに『しかたなく』なんだって。…しかも王様からの指令もあるらねぇ(ぼそっ)」
「え?」
「いいや。なんでも。」
「・・・・・」
「とにかく、ちょっと休憩させてくれよ。朝からずっとあの調子で結構へとへとなんだ・・・・正直キャロルが来てくれて助かったよ。でないとずっとあのご婦人たちに捕まったまんまだった。」
「自称『フェミニスト』ですものね。・・・・けどそんなに断れないものかしら?(不審そうな目)」
「うん。気遣い屋だから。(にこっ)」
「女性限定の?」
「当たり前だろ。…野郎どもに気を使ってどうするのさ」
「ふーん。・・・じゃ、私もその『野郎ども』っていうのと同じなのね・・。(ぷいっ)」
「何いってるの。ば〜か。お前は別。『特別』だよ。」
「・・・・・」
「『特別』に決まってる。・・・かわいい妹なんだからさ。違って当然。・・・・・ん!・・ぁはん!」
「・・・・・・・」
「ああ・・・そっか。。。(笑) な〜るほど。・・・それでさっきからご機嫌ななめだったんだ」
「・・・・・べ、別に…///。」
「このお姫様は昔っから「おませ」だったからな〜。構ってもらえないからってすねちゃって。ま、それもまた可愛いんだけどさ。・・・ホントわがままっ子だなぁ(にこにこにこ)」

ぐしゃ ぐしゃ ぐしゃ・・・

もう何度目かわからないけど
額の上の手のひらがまた髪をかきまわす

「もう・・・っ! だからっそーゆーのやめてほしいの!もう子供じゃないの!わたし。」
「知ってるよ。・・・でもね、キャロルのエスコート役は『王様』限定だろう?だから君だけは絶対『大人扱い』なんてできないんだよ。理由は分かるだろ?」
「う・・・・・」
「なんてったって王様の目が恐いからね〜(笑)」

ぱふっ・・

「だからね、僕は君を子供扱いにしかできないの。」
(・・・っていうか、堂々と君を子ども扱いにできる兄の特権くらいは王様には勝ちたいっていうのが本音だけど。)

「わ、わ、わたしはただ・・・・! そうよ、そんなことじゃなくて・・・」
「・・・何?」
「子供扱いなんていうのは別にいいの。実の妹なんだもの、そんなのあたりまえだし・・・。ただ・・・わたしは・・・ロディ兄さんの無茶苦茶に八方美人な所が好きじゃないだけよ。 し、心配してるのっ! ・・・・色々・・・その・・・あまりいい噂を聞かない人達ともたくさん・・・・・・お、お付き合いしてるって・・・・・みんなが知らせてくれて・・・・・」
「。。。。。。へぇ?」
「・・・・・///・・下エジプトでは・・・・ま、毎晩・・・・・違う女性が・・兄さんのお部屋に出入りしてるって・・・・あの・・・・う、噂で聞いたから・・・・・」
「・・・・・・・ふぅ〜ん・・・。」
「そのっ・・ だから・・・ 誰とお付き合いしても・・・そりゃあロディ兄さんの自由だけど・・・でもせめて人を選んでって言いたくて・・・」
「―――そんなに見境ないように見えるのかなぁ・・・」
「・・・・・兄さんってば・・・」
「大丈夫。選んでいるよ。『キャロルが心配することがないように』ちゃんと上手に付き合ってるから。言ったろ、これは僕の仕事だって。」
「・・・仕事?」
「そうだよ。お仕事。・・・女性達とのお付き合いもちゃんとした最前線の『ビジネス』ってこと。」
「・・・・・・?」
「平たく言えば、クチコミリサーチ・・・かな?」
「・・・・・・リサーチ・・・?!」
「そう。特に女の人は意外と最先端の情報を握っていることが多いから侮れない。どの時代でもね、彼女達は世の中の情報の最前線さ。」
「・・・・・・・・」
「怒られるかもしれないけど、女の子たちのおしゃべりの中には男の側の秘密が駄々漏れでね。思っても見ない重要機密が聞こえて来る場合もあるんだよ。」
「・・・・そんなものかしら・・・?」
「そんなものだよ。だ・か・ら、キャロルも言動には気をつけなきゃだめだよ。王様が大事ならね。」
「。。。。。う・・・」
「・・・ということで、ご理解いただけますかね?王妃様?(にこ)」
「でも・・だからって・・・ いくらなんでも・・・・」
「ふふふふ。 そんなに気になる?」
「・・・だって・・・・」
「ハグだけだよ。」
「・・・!」
「誓ってもいいけど、『お付き合い』している女性とはハグまでしかしてないから。・・・これホント。・・・でも、」

チュッ

「!!!!」
「・・君だけは特別だから、マウス・トゥ・マウスだよ。」

軽く触れた兄さんの唇
それは、とても懐かしい家族同士のキス
そういえばリード家では家族みんなが末娘のキャロルにはこうした小さなキスを普段から山ほどくれていたのだ。
いつもいつも、朝に夕に、出かけるときに、帰宅した時に・・・
父が、母が、兄たちが・・・最愛の末っ子を取り合うように。
それはもう、挨拶以上に日常の仕草で。

ロディはにっこり笑顔で、それは嬉しそうにまたポフっとキャロルの額に手をおいた。

「王様にはナイショね。コレ。」

片目をつぶってシーっと唇に人差し指を立てる。
いたずらっ子のように

でも、ちっともそれが悪いとは思ってない
やめられるはずなんかないって・・・そんな顔。
そうよね。
わたしたち家族にとっては、別に普通の事だったもの。
あたりまえだった習慣はとりあげられたくはない。

「・・・・・ほどほどに・・しておいてね。」
「どっちを?ハグを?君へのキスを?」
「どっちもよ。」

パコッとキャロルがロディの胸元に小さな拳骨を当てると、ロディはまた思い出したように、

「けど・・・ライアン兄さんだったらきっと堂々と王様の前でもやるだろうな。」

と、クスクス噴出した。

大胆不敵で誰よりも負けず嫌いな長兄。
ロディが1度ならライアンは2度、キャロルにお帰りのキスをしていたものだ。
それに、たった一人でも自己主張を曲げない頑固な性格を思うと、ものすごくありえると思う。

「説明したところで王様には理解できないだろうけど・・・、これって我が家ではちょっとした『おはよう』とか『おやすみ』の言葉と意味合いはほとんど変わらないんだけどねぇ。見られたら王様本気でブチ切れそうだし・・・」
「お願いだからそれだけはやめてね。・・・・ほんっとに冗談ですまなくなるわ。」
「ただの我が家でのスキンシップ(愛情表現)なんだけどなぁ。」
「ダメったら駄目。」
「はいはい。 (チュッ)」
「!!!!!!っ ロディ兄さんっ!!」

「だからねぇ、そこの君たち、これは別に不埒な事でもなんでもないから、王様には告げ口しないようにね。」
「えっ?何っ!? ・・・やだ、ルカ、ウナスも・・っ!!」
「・・・・・ほどほどになさってください。ロディ殿下。」
「ああ。分かってるよ。」
「ファラオの耳目は我々だけではございません。」
「そうだね。気をつけるよウナス隊長。・・・・で、王様がお戻りなのかい?」
「はい先程。執務室までおいでくださいますように・・と。」

いつの間にか庭先の木陰で控えていたキャロルのお付武官たち
最初から彼らが側まで来ていた事を分かっていたロディは、特に驚いた風もなく声をかけた。

ひとときの休息はこれまでらしい。
ロディは立ち上がり、しかたがない・・と、呼び出しに向かうことにした。


「やれやれ。・・・・嫌だなぁ、また絶対山ほど宿題を渡すつもりだよ・・出かける前にあんまりあそこには行きたくないんだよね。・・ライアン兄さんの社長室に呼び出しされる時とテンションが一緒になるよ。」
「兄さんったら。」
「比べたら怒るからナイショだけど・・・・・黒い所の性格そっくりなんだよね。あの2人って。だってさ、僕には言いたいこと言い放題だし、嫌味も、いじめかたも似ていて容赦がないっていうか・・・・・・」
「でもそれってすっごく頼りにされてる証拠じゃない。普段、2人とも素で他人に接するなんて事しないんだから。・・・やっぱりロディ兄さんって凄いわ。どこでも『もてもて』ね♪」
「・・・・全然嬉しくないよ。それ。(むす)」
「(くすくす) がんばって。ロディ兄さん。わたし応援してるから♪」

チュッ♪

「・・・・・・・」
「キャ、キャロル様!!!」
「ファラオがご覧になっていらしたらどうするんですかっ!!」


「・・・・・ほんと、『ほどほど』 にしておかないとねぇ・・・。君が言ったことだけど。」
「え?」
「・・・今の、マウス・トゥ・マウスじゃなかったのだけが救いかなぁ?」
「・・・・・・・ま、まさか・・・・・|||」
「うん。。」



「・・・・やれやれ。・・・・困ったな。宿題、『倍増決定』 だよ。(苦笑)」



Fin.




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