聖夜のクリスマスソング
♪ジングルベールズ ジングルベールズ
シングル オール ザ ウェ〜イ ♪
オー ワッファ〜ン イッティツゥラ〜イド
イナ ワンホース オープンスレ〜ェイ ♪
「・・・・・・・・・」
毎年ある時期になると、浮かれたように歌を口ずさむ姿に慣れてはきたが、それはあくまで愛しい妃だから容認できる事。
「あ、王様。メリークリスマス♪」
両手に大量の金細工を抱えて鼻歌交じりに振りかえったのは、同じ金髪碧眼でも妃とはまったく色合いの違う(性格の悪い)義兄ロディである。
事の始まりは3日程前に届けられたこの木だ。
このエジプトでは育たない北方の樹木だが・・それを見たとたんキャロルは嬉々として当然のようにこの(わたしとキャロルが二人きりでくつろぐ)『居間』に運ばせ、その中央に据え置いたのだ。
送り主の名もないのに「兄からだ」とはしゃぎながら。
そんなものをこの場所に置かれて気分の良いはずがない。
「・・・・どうしてこんな所に木など置くのだ?邪魔ではないか」
「あ〜、ダメダメ!これは大事なモミの木だから大切に飾ってよ♪」
「なぜ?」
「クリスマスだから」
「???」
浮かれて木の回りをくるくる飛び跳ねる妃に無理やり撤去することもできず、
そうこうしているうちに、呼びもしないのに下エジプトにいるはずのアヤツがやってきたのだ。
・・・・そして今、当然のように「この部屋」に出入りをしている。
「もう少しで出来上がるからね。キラキラして綺麗だろう?あとはこの星を飾るだけだよ。」
踏み台を置いてそのうえに上ると木の天辺に届くぐらいの大きさの木だが、今やその木の周囲はなんというかさまざまな飾りで彩られ、最後の仕上げとばかりに、金色の「星」とやらをあちこちにぶら下げている。
しかも、今こやつが鼻歌で歌っているのは確かキャロルが毎年歌っていたあの曲だ。
言葉の意味は分からないが、何度も耳にしているうちに聞き覚えた旋律に間違いない。
キャロルの神の世界の歌だからこちらの者が誰も歌えないのは当然だが、その誰も歌えないはずの歌をロディが歌うのはどうにも気分が悪い。それを歌って良いのはキャロルだけだ。だれも歌えないキャロルの歌を(神の国の住人であれば当然ではあるのだろうが)あっさりとロディに歌われてしまうと、大事なキャロルの歌を奪われたような気がして堪らなく悔しくいらだってしまう。
「よ〜し。OK。できたよキャロル♪」
「わぁ綺麗〜!!すごく本格的で素敵!! ねぇ、見て見てメンフィス♪これがクリスマスツリーなのよ♪」
「・・・・・・」
「ここでちゃんとお祝いするのは初めてだから色々教えてあげるわね。今日はね、この木のもとで家族みんなで団欒して過ごすのが習いなのよ。」
「多神教の国でクリスチャンの行事もどうかと思ったけど、どうも僕らの習慣でね。できることならやらないとなんとなく落ち着かないんだ。君も家族の一員だし付き合ってくれるかな?」
「・・家族?」
「そう。家族よ。ほら、わたしとメンフィスとそれに兄さん。今日は家族3人でゆっくり過ごしましょうね♪」
「・・・・3人?・・・・「ここ」で??!!」
「そうだよ。『ここで』ね。(にこにこ)」
キャロルと二人きりであるべきはずのこの場所に、嫌がらせと分かっていてこの義兄は居座るつもりらしい。
「〜〜〜キャロルはともかく・・・何故そなたと過ごさねばならん!ここは・・」
「メンフィスにとっても『兄さん』なんだから家族として「当たり前」でしょう」
「だそうだよ(くすくすくす)」
「ねぇ兄さん、厨房に頼んで「チキン」も焼いてもらったの♪準備もできたしディナーにしましょう♪」
「へえ〜、なかなか美味しそうじゃないか。じゃあ、早速いただこうか。」
返す言葉につまるメンフィスだったが、いつになく嫌がらせも何か柔和な膜で抑えているような雰囲気のロディに違和感を感じた。いつもならもう2・3ほどダメ押しのように(メンフィスにだけ)何か辛辣な言動をしてくるのだが・・・
ふと、そんな疑問な視線に気づいてロディはメンフィスを見て目を細め肩をすくめてみせた。
「王様はこちらへどうぞ。今日は僕らの大切にしている神様の誕生日なので、『ケンカはご法度』なんだよ。まぁ思うところは色々あるかもしれないけどね、本日は『休戦』ということで。」
ロディはそう言ってデキャンタを傾けメンフィスの杯にワインをそそぎいれた。
「どんなに争っていても、今日だけは平和に過ごすのが慣例なんだ。気味が悪くてもこちらの事情だからね。安心してくれていていいよ。」
「・・・」
「・・・え? なにが気味が悪いの?」
「ん?」
「・・・ まぁ文化の違いってなかなか理解できない所もあるだろうって事かな(にこっ)ねぇ王様。」
そう言ってロディは適当にごまかしてキャロルをはぐらかした。
「・・・・(そのありえないぐらいの笑顔が不気味だというに・・・)」
「キャロルだっていきなり知らない宗教で祈祷されたりしたらびっくりするだろ?」
「・・・・そうか、そうね。そういえばごめんなさいメンフィス、急にお部屋にツリーなんか持ち込んだりして・・いきなりこんなのお部屋のど真ん中においたら確かに驚くわよね。」
「・・・・・・・・いや、それはもう構わぬが・・」
「本当はプレゼントもたくさん用意するんだけど、今日はお料理の準備で精一杯で・・」
「いや、それも気にするでない。」
「だって・・」
「気持ちだけで十分ぞ。」
「でも、ほかに何もないっていうのもクリスマスとしてはやっぱりねぇ・・・。」
しばらくう〜んと考えをめぐらせて、ふと、キャロルはポンと手を打った。
「じゃあ代わりにわたし歌うわ♪メンフィスにはクリスマスの歌をプレゼントするわね。そうだわ!ねえ兄さん、コーラスで合わせてよ♪今日はありったけメンフィスにクリスマスの歌を聞かせてあげたいの。メンフィスの幸せを願ってね♪どう?これってとってもクリスマスらしくってハッピーでしょう?」
「え?!」
(王様の為に僕が『歌』を歌えって??)
めずらしく一瞬ひきつったロディの口元をメンフィスは見逃さなかった。
「ほぉぅ・・・義兄上殿が『わたし』の為に神の歌を色々歌ってくださると?・・それは楽しみだな。是非聴かせていただこう。」
キャロルと一緒にあの歌を歌われるのはやはり気に食わないが、どうやらロディはメンフィスの為にこの歌を歌って聞かせる事になるのは不本意らしいととっさに見切った。
いつもの嫌がらせの大いなる意趣返しになりそうなので、メンフィスの頬にもにやりと笑みが浮かぶ。
「・・・・あまり上手じゃないんでね。お耳汚しだと思うけど・・・お望みならご披露しましょうか?」
「構わぬぞ。いくらでも歌うが良い。」
「・・・長くなると思うけど?(そんなに言うなら本気で居座らせてもらうよ?)」
「望むところだ。」
なぜかバチバチと妙な火花がちっているモミの木の下。
「分かったよ。・・じゃあ乾杯しようか。聖なる夜に」
「ええ♪ メリークリスマス メンフィス♪ ロディ兄さん♪」
「うむ」
休戦の夜、こうして「我慢大会」な歌合戦がカチンとグラスの合図ではじまったようです。
Fin.
2012年12月25日 PLEIADESよりMaryXmas♪
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