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背 中






頬をぴったりと貴方の背中に当てているのが好き

貴方が長椅子やベッドに腰掛けているのを見つけると、トト・・と近寄って
そうして隣に座って、よっこいしょ・・と、お目当ての場所にたどり着く。

貴方は時々あきれたように笑うけど・・・それでも好きなようにさせてくれて。


―――そうして、わたしは貴方の背中にもたれていることが多くなった。





ある時、ミヌーエ将軍が言っていたの。
メンフィスは真後ろに人がいるのを極端に嫌がるっていうこと。

「武人としての性ですが・・・どちらかというとわたくしも苦手ですね。」


―――でも将軍はいつもメンフィスの後ろにいるじゃない?

―――そう見えますか?


そんな風に微笑まれて気になったから・・
よくよく注意してみてみたら、彼はいつも少し斜め左に控えているんだって分かったの。メンフィスの真後ろじゃないことが。

「戦場の時だけは・・お許しいただいております。」

背中を預けるに足る者としてメンフィスが唯一認めた将軍は、控えめながら嬉しそうに口元をほころばせた。



じゃあ・・



じゃあ・・わたしは・・・?






足音を忍ばせて、こっそり後ろに回りこむ。

片膝をたててくつろぎながら書面を読んでいるところを、そろそろと近寄って・・

気づいていないはずはないの。
絶対わたしがいること分かった上で、なにも言わないでそのままの体勢。


ふわっ・・・・っ


伸ばした指先が貴方の背に触れて
そぉっと貴方の座る長椅子に・・その背中にもたれるように自分も座って・・。

・・それでも、貴方は振り返ることもなく、それがあたりまえのように、何事もなかったかのように仕事を続けていく。

でも時々わたしが小さく身じろぎすると
つと、動きがとまって・・
そうして・・わたしの様子を伺うような優しい気配が伝わってくるの

ふれている頬に、ずっと・・とても落ち着いた貴方の息遣いが聞こえる・・・




わたし・・ここにいてもいいのね。


貴方の後ろにいても・・・・・・





だから・・・


―――だから・・・わたしは・・・
           貴方の背中が・・・・・・好き







Fin.


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