王家の谷へ

あの日 扉の前で

〜 アメン神祝祭での二人 〜




神の御座船をおりて聖水を受け、祭壇の場へ向かう
重厚な扉・・・・キャロルは目の前にそびえる神々の文様がびっしりと刻まれた大扉を見上げた。
この向こう側が・・・・壮大な列柱群が並ぶ大神殿の中央ホールになる
くぐもったように反響して聞こえてくる大勢の人々の独特のざわめき
彼らが待つのは・・・自分たちの入室だ

「・・・・待って」

きゅっ


「!」


ほんのすぐそば

自分から・・
勇気を出して、すぐ隣に凛として立っていたメンフィスに手を伸ばす

「・・・・どうした?」

貴方はほんの少し、驚いたよう・・
でも、手にふれてきた私の指先をしっかりと握り返して・・嬉しそうに貴方は笑った
振り向いたその目には優しい光
見たこともないほどの優しい眼差し

「・・えと・・その・・・」

そんな瞳に見つめられて恥ずかしくなってうつむきかけると、くっと、触れた手をひかれメンフィスの脇にひきよせられた。
肩を包むように抱き寄せてくれた貴方の口元から小さな忍び笑い
それで・・今更ながらに緊張してガチガチになっていた自分に気づく
さっき触れた指先も震えていたのかもしれない・・・・

「・・・まいるぞ」
「・・ええ・・」
「しっかりいたせ。・・・側にいる」

ふっとこめかみに唇が触れる
メンフィスの小さな口付けが

「側にいる。安心いたせ・・・」

「!」

どきどきと胸の鼓動が激しくて
隣の貴方にまで聞こえてしまいそう

「愛している・・・未来永劫そなたを・・」

つい・・と貴方の左手が私の右手をもちあげ
そしてすこし持ち替えられた

「メンフィス・・?」

貴婦人の手を取るように下から掬い上げて、そのまま指先を愛しむように口付けて・・
わたしの姿を改めて見下ろしながら目を細めた

「よく似合う。」

「・・・・」

「・・・まこと女神が降り立ったようぞ」
「メンフィス・・・・」
「いや・・違うな。」


「・・そなたはまさに 『女神そのもの』 だ」

「・・・・・」


「・・・ようやく・・・・やっと・・やっとわたしの 『正妃』 となる・・」

「・・・・・・・メンフィス」


「もう 『待てぬ』 からな。・・・もう途中で儀式を中断させる事など絶対にさせぬ。
力ずくでも遂げてみせるゆえ 『何があっても』 逃げてはならぬぞ。
・・・・わたしを信じよ。よいな。」

「・・・メンフィスったら・・」

ぎゅっと大きな貴方の手を握り返す。
長い指・・
一見繊細な様に見えるけれど、触れると確かに武人であることが分かる・・・
・・・彼の力強い握力が・・頼もしい強さが・・愛しさが・・感じられる。

逃げたりなんかしない。
もう、離れない。
貴方の側から離れたらきっと生きていけない。

これからはずっと・・・自分で貴方を捕まえに行くわ。

こうして指を伸ばして・・
自分から貴方を追いかけて
貴方を守りたい・・・・・


たとえどんなに遠くにあっても貴方のその手は私のもの
この手をつないで歩くのは私・・

ずっとずっと私だけ・・・

・・そう信じていいのよね。




「さあ・・・行くぞ。」

「―――はい。」



もう一度・・しっかりと指を絡めて




扉の向こうで声が聞こえる

(開門・・・・・! 開門・・・・・!)


荘厳な響きを反響させながらゆっくりと開かれていく大神殿内部の大きな扉



眩しい光の中へ

愛する貴方と手をつなぎ
共に数奇な運命の先へ


この胸の誓いを神々に告げる為に・・・・


歓声につつまれ、キャロルはその一歩を踏み出した。







Fin.


王家の谷へ


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