王家の谷へ

                     Presented by みんみんまま様


                           賛歌を歌いし君に



Carol・・・
・・・・・Carol・・・・・・・Carol・・・
君が生まれしその朝(あした)
待ち焦がれた家族は口ずさむ――――神を祝福する歌を
―――――神を讃えるその歌を
彼女の名を呼ばうのは――――
それは神を祝福するのと同じこと
神聖さをもって高らかにその名を空中に解き放つ――――
神に祈り届けよと・・・・
賛歌の名を冠する我が娘よ、我が元に生まれし愛する娘よ。
とこしえに幸せであれと・・・・祈るのだ。



「娘、そのほうの名は?なんと申す?」

黙して答えぬ娘。
怒りを迸らせる青い瞳を上げずに俯く。
・・・・こんな人になんかわたしの名を教えるものか!
だが、ささやかな反抗は奴隷のセチが彼女に続いて捕縛されたことによりあっけなく終焉した。
期せずして彼女を救おうとしたその奴隷の少年が―――――彼女の真名をその天上人に宝玉を供物するかのごとく、奉げてしまったのだ。
そう――――彼女は奉げられてしまったのだ。


彼はややもすれば彼女を呼ぶ。
わたしの中ににそなたが織り込まれたように・・・そなたにもわたしの存在を織り込むようにと―――
その度、細糸がきん・・と音を成すほどに強度を得るべく縒られていくように言葉の縛が掛けられる。
言葉に力を持つ者が丹念に縒りをかけ、縛を次第に幾重にも幾重にも・・・・彼女の身に纏わせる。
逃さぬ・・・と熱い滾りを色なしながら。


娘が濁流に飲み込まれ、その存在を危ぶまれたとき、彼は祈とともにその名を口にした。
幾度も―――幾度も――幾たびも。
罠を張り巡らせ獲物を捕らえるべく槍をつがえ持つ狩人のように。
網を引き絞り獲物を追い詰める漁り人のように―――
その白魚の身に纏わせし縛を慎重に息を潜めつつ手繰り寄せていく。
青きナイルの流れより招きだす・・・呼び寄せる・・・・。
召還せしめた娘はなすがまま簡単に暖かな強き手中に落ちていた。
この現の神が心を引き絞るがごとく底辺より祈ったのだ。
叶わぬ事なぞありはしない。
名は存在を表す。それは呪文。
真の名を捕らえられた娘に逃げる術なぞない。
そして檻に込められる。
華やかな捕縛。宮中という典雅な牢。
逃さぬよう十重に二十重に城壁を――人垣を廻らされた出口の無い迷宮。
何よりも強靭に解けぬ鎖は彼の人の抱擁、“愛”と謡われし呪縛。
彼は彼女を熱き胸に抱きつつ呪文を重ね、縛を強める。
益々堅固に決して解かれることが無きように。
愛の言葉を口ずさみつつ―――その名を謡い真白の身体を己が身に吸い付ける。


Carol・・・
・・・・・Carol・・・・・・・Carol・・・
そなたに初めて逢うた暁
出会いの時は気付かぬでも既に・・・
われはそなたに焦がれつつ口にした――――神を祝福する歌を
―――――神を讃えるその歌を
そなたの名を呼ばう時――――
それは我が神を祝福するのと同じこと
神聖さをもってその名を空中に解き放ち、我はそなたを絡め取る――――
そして神に祈り届けよと・・・・
賛歌の名を冠する最愛なる娘よ、とこしえに我が元にあれと・・・・祈るのだ。




Fin.




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