chapter 9
〜 侍女イベント 〜
年に一度の大祭の日、だれもが浮かれる祭りの日
侍女たちのあいだでも大変心躍る年中行事がおこなわれようとしていた。
「ちょっと・・参加者去年よりも多くなってない?」
「あたりまえよぉ。こんな素敵なことお姉さま方だけで内緒になさっていただなんてずるいわ。」
「年々増加しているわね。コレじゃあ本当に確率低そう・・」
「ええ?貴方1000番台なの?うそっ、じゃあ一体どれだけの人数が応募しているのよ?」
みなこっそりと小さな棒を持っている。
細い棒の先端はすこし平たく削られ、小さく文字が記入されていた。
正確には番号が。
これはなにか?
平たく言えば『くじびき』である。
この行事が行われだしたのは5〜6年ほど前からのこと。
ちょうど現在のファラオ、メンフィス王が即位した頃からだ。
「テティ様は参加なされないんですか?」
「え?わ、わたし?わたしはいいわ」
「さすがは王妃さまのお側近くにお勤めだけあるわね。毎日お側でお目にできるんですもの。羨ましいわぁ・・」
「まあまあ、これでちょっとでも確率があがるわよ。ありがとうねテティ♪」
「は・・はぁ。」
「何?何の棒なの?それ?」
「きゃっ!!!お、お、お、お・・・王妃様!!!!いつからそこにいらしたんですか?」
「楽しそうね。みんながそれ持ってこっそり騒いでいるのを見かけたからなんだろうと思って(^^)何?お祭りのイベントなの?わたしにも教えて♪ねぇ、それもしかしてくじ引きじゃないの?」
「え、え、え、え、え・・・・っっっ あのっ」
「おーしーえーて!!でなきゃナフテラにいいつけるわよ!」
「そっそっそれだけは!!!お許し下さいませっ姫様!!!」
「じゃぁ、私も混ぜて。女の子の楽しみなんでしょう?それって。」
きらりんとキャロルの目が光る。
間違いなくあたっている。たしかに侍女たちにとって・・いえ、娘達にとって非常に心躍る年に一度のお楽しみなのだ。
でも・・・王妃にこれを知られたら・・・
王妃につかまってしまった侍女たちは真っ青になって顔を見合わせた。
泣きそうな顔をしてテティに助けを無言で求める。
「ねぇ????みんな?どうしたのよ?」
「・・・・・姫様、絶対、絶〜対『怒らない』とお約束いただけますか?」
「?」
「みなの『命』にかかわることですから・・・黙ってすべて見逃していただけるとお約束いただけるのでしたら・・お教えいたします」
「テっ・・テティ様っっ!!!」
「・・・・わ・・・わかったわ。約束するわ。」
「本当ですね?」
「誓うわ。じゃあ全ての神かけて。誰にも言いません。―――これでいい?」
几帳面にキャロルは胸の前で十字もきった。
テティは小さく溜息をついて、側の年少の侍女になにやらささやいて侍女の詰め所へ行かせた。
もどってきた少女の手にはあの小さな木切れの束が。
「・・・・どうぞ。姫様」
「これ、みんなの持っている木の棒と一緒ね。」
「せっかくですから。おっしゃるとおり『くじ引き』なんですこれ。姫様もひいてごらんになります?」
「え?私も???・・・いいの?」
「はい。・・・・お教えするとのことですから。せっかくですし」
侍女がキャロルにその束を差し出した。
キャロルは言われるままに手を伸ばし1本をつまみ出す。
「うふふふふ。なんだかワクワクしちゃうわね。なにが当たるのかしら?」
「え・・・・・と・・・」
「テティ?」
「姫様に対してはかなり無礼なことなんですけど・・・・」
「???」
「・・・見逃してくださるとおっしゃっていただいたので・・・。あの・・・本当にどうか怒らないで下さいね。」
「怒る? 私が??? どうして?」
「―――実はこれ・・『メンフィス様付き1日侍女特典』の抽選なんです。」
「え??」
「あの・・・・その・・・正確にいうと・・『湯殿』侍女メンバーになれるっていうものなんですよ。1日だけ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
絶句して思わず声がでないキャロルだった。
目をまるくしているところへ、メンフィス付きの侍女が控えめな口調で付け加えた。
「―――もちろんお役目は大変重要で恐れ多い事ですのでおろそかには決してできませんし、またわたくしどもメンフィス様付きの専属侍女が目を光らせておりますゆえ不審な行為は絶対に許しません。・・・・ただ遠めにそのお姿を拝することができるというものでございます・・・。」
「・・・ファラオは娘達の憧れです・・一生に一度でもいいからお側でお姿を拝したいというのが大半の侍女たちの夢でございます。・・・どうか姫様、ご不快なことかとは存じますが・・何とぞご寛恕くださいませ。」
これを公開することは彼女たちにとっても相当なカケだったはずだ。
キャロルの人柄ならきっと許してくれるだろうと見込んで、テティはこうしてキャロルにうちあけたのだろうが・・・
「―――ご寛恕もなにも・・・こんなに盛り上がっているのに止めろとはいえないわよ。」
「姫様!」
「まぁ・・・・そりゃぁ・・・・・メンフィスは素敵だし・・・・・・・・・かっこいいし・・・」
小さな呟き。
のろけていっているつもりではなかったが、キャロルの頬は真っ赤になっていた。
「みんなの思いも―――わからないでもないから・・・・・・・・」
非常に複雑な表情を浮かべてキャロルは侍女たちに言った。
「ちゃんと『おつとめ』としてなら・・・」
「そ、それはもちろん!!」
「・・侍女の仕事はあなたたちで割り振られるんだもの。わたしがどうこうと言えるものではないわ。」
「・・・・あの・・・今後もお許しくださいますか?1年に1回だけですので・・・」
「本当に妙なことにならないならね。」
侍女たちは歓喜してキャロルを見上げた。
年頃の娘達らしい憧れを、王妃に公認してもらったようなものだ。
「はいっ!お約束申し上げます!!」
「もう、いやね、そんなにはりきらないでよ。だ・め・よ。メンフィスは『わたしだけのもの』なんだから!」
めずらしいキャロルの発言にどっとその場は沸き立った。
「いまのお言葉、メンフィス様にお聞かせしたいですね。きっとお喜びになられますよ」
「もう、テティったら!!」
かくして・・・・・・・
当選番号1326番
公平に抽選する為、何も知らない子供が抽選箱からパピルスの紙片を引いた。
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「キャロル?」
「・・・・・どうぞ。ファラオ」
湯船の前で顔を真っ赤にしながら湯上りのローブを持って立っているキャロルがいた。
まっすぐ正視できず、横目加減にうつむきながら。
まとう衣装は上から下まで完全に侍女のもの。
黄金の髪だけが妙に浮いている。
(・・・・・っっ これじゃあまるで『罰ゲーム』みたいじゃないっっ!!)
『―――当たったからには・・やっていただきましょう。』
湯殿侍女の全ての仕事を解説され、すっかりやらされる羽目になってしまった。
着付けに、髪の手入れに香油塗り・・・・
「・・・・・なかなか・・良い趣向ではないか。」
行為の始終口元に微笑を含むメンフィス。
殊更にご満悦で『侍女キャロル』を連れて寝所へ向かわれたのはいうまでもない。
おしまい
愛の奥宮殿へ 黒猫様作・侍女イベント続編♪「刻まれしもの」