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王兄 ロディ・リード

【事件】




ネバメン殿下死去

テーベから下流の地方神殿で事は起こった。
下エジプトへ向かう途中、滞在先の神殿で血を吐き急逝したという。

夕食直後に倒れたことから、毒殺かもしれないと調査がされている。
ただ、ここ数ヶ月ネバメンには慢性的な過食からあまり体調が良くなかったとの状況もあるため、病による突然死であったのか暗殺であったのかは未だ不明のままだ。

「だいたい僕はここ数ヶ月一歩もギザから出ていなかったからほとんど蚊帳の外だよ。訃報の件もホルス将軍が伝えてきて『初めて』知ったし。もともと王弟殿下の顔もろくに知らなかったからね。まぁ、高位の要職にいたわりにどこからも何の評価も聞かないような印象だったけど。」
      
「他には?」
「他?」
「義兄上殿の所に他にその後・・・見慣れぬ客が訪れるようなことはなかったのか?」
「それはもういくらでも。呼んでもいないのに王様の使者なんて追い返しても追い返しても次から次へと・・・」
「こちらの者のことではない(怒)」
「冗談。・・・うーん・・そうだねぇ・・・・確かに色々お土産持ってくる見知らぬお貴族様がやたらぞろぞろと増えてきたかな。せっかくだからもったいないし、貰うだけもらって『ありがとう』とだけ言っておいたよ。 ふふふふ、・・・・王様と『仲が悪い』と評判だと下エジプトでは何かと生活に困らなくていいねぇ。どうやら本気で僕を次の王様候補にしたてたいって考えてるらしい。・・・ちょっと真剣に考えておこうかな。(苦笑)」
「・・・・ふん。・・・そうか。」
「ちゃんと僕がテーベまで帰ってきて『安心』したかい?」
「こちらは現場から遠いのでな。・・・聡い義兄上殿はアレより確かに脅威・・・。その気になって逆に奴らと結託されては困るゆえ。・・・・ご足労をかけた。」
「・・・なんだ、本当にその確認の為だけにテーベくんだりまで僕をひっぱりだしたんだ?冷たいなぁ。ちゃんと“定期便”
は送ってるじゃないか。こ〜んなに溢れんばかりの『愛』をもって王様を思っている『兄』を信じてくれないなんて。(うるっ)お兄さんはものすご〜く悲しぃ〜ぞ!」
「(ふるふる・・)・・心にもないことを。・・・いけしゃぁしゃあと笑顔でしっかり闇献金まで受け取る腹黒い兄など知りませぬな。・・・ええい先ほどから鬱陶しい、男のくせに泣きまねなどされるな!」
「ずいぶんだなぁ。遠路はるばるその遠縁の葬送に列席しろと無理に呼び出したのはそっちなのに・・・。忙しい仕事も片付けて飛んで来たってのに。」
「忙しい?・・・・義兄上殿は大半、畑の水遣りをしているだけだと聞いたが。・・・・・このところそなたの決裁が取れぬゆえ協議が進まなくて苦慮していると臣下からの苦情まできたわ。」
「おやおや。」
「・・それが今一番重要な仕事か?」
「すっごく重要。めちゃくちゃ重要。とにかく今の僕にとっては一大事・・・かな。農業なんてものは気候も土地風土も知らないと出来ないことだからね。第一、農作物は下エジプトの要だろ。じゃ王様に聞くけど、渇水の時期に実際どの水門をどれだけ開けているのかを知ってるのかい?」
「・・・・」
「予想はしていたけど、お金持ちや有力者の土地へは物凄く有利に配分されてるんだね。あちこちのお貴族様達に便宜図ってもらって大分構造が分かった。おかげさまで水遣りだけでも色々と勉強させてもらったよ。」

(便宜?・・・・・・”たらし込み”の間違いではないのか?)

見目麗しい・・・・といっても過言ではないこの義兄は、貴族の夫人どもに(・・しかも年齢の上下を問わず)異様な人気があるという。・・・おそらく『便宜』とやらの引き出し口はそのあたりだろう。

「そうか・・・・これは失礼した。・・・それではあちらの水利は把握されたのか?」
「・・・・・まぁ、必要だからほぼ。ある程度はね。多分だけど、今王様と下エジプトで水上鬼ごっこしたら僕が逃げ切れるだろうことは保障するよ。」

ロディはトントンと指先で自分のこめかみを叩き、にっこりと微笑んだ。
言葉は控えめだが、すっかり覚えたと言っているのだ。

「ふっ・・・それは頼もしいことだ。」


軽く笑って言っているがそれは本当の事に違いない。

下エジプト流通網の掌握・・・
エジプト王国の大動脈を管轄している役所、『運輸機関・最高長官』が現在のロディの肩書きである。

ロディのまっすぐ見据えてくる瞳のぶれのなさでも十分推し量れる。
それが証拠に、今年にはいってからの下エジプトの水運益の向上は目覚しい。

実のところ下エジプトは大穀倉地帯で実りも豊かな分、横領も多い。
法をすり抜けて私服をこやしていく貴族も多くいる。
それでも、ナイルの恩恵が甚大だったので王国自体の租税や経済基盤が揺らぐことはなかったが、下流域の経済統制がかなり駄々漏れなところがあったのは否めない。

もともとファラオの本拠地がテーベを中心とした上エジプトであること、
そしてかつて下エジプトで勢力を統制していた女王アイシスが存在しなくなった事で下流域の統治は年々緩みに拍車をかけていた。

・・・そして追い討ちをかけるようにあらわれたのは「王弟ネバメン」だ。
神官職の高位につき、王族である立場をも利用して下エジプトの利権を次々に掌握しだしたのだ。

ひょんなことからロディが古代エジプトに現れるようになった時には、王弟殿下の豪遊贅沢振りは実に有名だった。
表立っては憚られたがネバメン殿下への多額の賄賂の横行は日常茶飯事だったらしい。
直接会わなかったにしても、色々な所で眉をひそめるような懸案によくぶつかった。

なんといってもファラオには世継ぎがまだいない。
それがまたネバメンに有利に働いたのだろう。
下エジプトでは次代のファラオ候補を足がかりに思惑をめぐらす貴族層のとりまきがとにかく多かったのだ。






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