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王兄 ロディ・リード

【諸刃の約定】




(さすがに回転がはやい・・・)

メンフィスはロディとこうした政治向きの話をするとき、ロディには何も具体的に説明をしなくても状況判断で先を見据えている感があった。
際どい話でも何故か不思議な阿吽の呼吸を感じる。
鋭い先読みの上になりたつ真剣勝負・・その駆け引きの投げあいが、認めたくないがどこか小気味よいとも思ってしまう。

きっかけを投げれば、確実に受け取り、こちらの予測通り・・・いや、それ以上のものが返ってくる
ただ、返ってくるそれは、まるで眉間すれすれに投げつけられた槍のように容赦がない。
狙いをはずしはしないが、こちらが受け取りそこねれば返り討ちにあうような冷ややかさなのだ。

(このぐらいの不正、“今の機会” に全部綺麗に取り押さえられないなら、ゴマすってきたやつらごとこっちで手飼いにして手柄も利権もそっくり貰っちゃうよ。僕に力をつけられたくなかったら王様がさっさと頑張るんだね。)

いままでのやり取り、ロディの裏の本音を要約すると・・・・そういうことになる。

なにがノホホン傀儡王だ。
その気になればいつでも下エジプトごと制覇しようと画策しているヤツが・・・


何でもあたりまえに考えが通じ合い『情』が先立つミヌーエとは全く違う。
ミヌーエは正に一心同体の人間。自分にとって表と裏のようなもの。

対してロディの思考は為政者のそれだ。忠誠では決してない。
気に食わないところは多々あるが、(外見が妃と同じ青い目と金髪であるのも憎らしいが・・) 逆に・・・不思議なことに互いにもっている本質というか・・核心が同じであるが故に、その考えが時折透けて見える気がする。

見据えている方向が・・・立っている場所が・・・
物事への判断力が
何より・・『守りたい者』が・・・同じゆえに

そしてときどき見え隠れする冷徹な意思までも・・・同質に思える。



〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


(・・・・・いいよ。じゃあ、王様に僕の時間を貸そう。)

(ただし・・・・君がドジを踏んだら・・・・ キャロルの騎士(ナイト)は僕が取って代わるから覚悟するんだね。)

(ぼくはね、君の敵でも味方でもない。このエジプト王国がいつ滅んでも別に何の感傷もないから先の事なんて正直どうでもいいんだ。最低限はキャロルの為に働いてあげるけど、ダメなときは君を倒してでもキャロルを元の世界に連れ帰るだけ。王様の御世が長いか短いか・・・お手並み拝見といこう。)


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


下エジプトに向かう前、ロディがわたしに突きつけた『挑戦状』
・・・負けるわけにはいかない



この者は一見、可も不可もないぼんやりした印象しか与えない。
      
優しげな顔に、温和な口調、王妃の兄という華やかな地位と外見はあるものの・・
利権に対しあまりに執着がなさそうな呑気さが、権力主義の貴族どもには、どことなくホケホケとしすぎていてネジが一本抜けているように見えるからだ。

ワザと意図的にそうしているのか、もともとの持ち味なのかはメンフィスにも未だ不明だが・・この掴み所のない印象だけで「御しやすい」などと評する者のなんと多いことか。

(ロディ様は好きなことを好きなようにさえさせて差し上げれば、何でも言うことを聞いてくださる・・・)

と、そんな風に思っている下エジプトの大貴族は多い。・・・自分たちが窮地に陥っている今でさえ。
油断の隙に見える真実や弱み・裏事情を次々に掌中にされ、気づかない内にロディの手の上で踊らされているとも知らず。

どれだけの人間がこの者の本質を見抜いていることか・・・・


(一応、ここにいる間は王様の意図には従うよ。 でも絶対じゃないから悪しからず。)


・・・どちらにでも・・・いつでも手のひらを返す―――――

誰にも付かないし、誰の味方にもならない

己の意思に沿うことでしか絶対に動かない・・・
だが動くとなれば・・・・蓄え集めた情報や己が知識を元に、どんな方法を用いてでも恐ろしく冷徹に徹底して事を成し遂げていく

おそらく・・・・・
どれだけ犠牲を出そうと
どんなに卑劣な事であろうと、ロディは己の方向を決めれば、心情を揺らすようなことはないのだろう。

その優しげな微笑のまま、何でもないことのように苛烈な事もしてしまえるのだろう。

キャロルを守る為ならば・・まさに『どんなことでも』。

この男は・・・・







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