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王兄 ロディ・リード

【結束】




ミヌーエの提案にロディが頷く

「・・なるほどそうだね。建設的意見だ。・・・王様、因みにキャロルがこれまでにこちらでまともに作れた料理は?」
「・・・・ゆで卵と、焼いた卵を巻いたものと・・・それをパンに挟んだものだ。」
「・・・・相変わらず 『茹でる』 か 『挟む』 かしかできないんだな・・(溜息)」

かるくロディは額に指を押し付け瞑目した。
あの料理上手な母の娘がどうしてまたこんなに超・料理音痴なのか・・遺伝の不思議を感じずにはいられない。

「確かパンだけは・・・焼けたか。」
「そうですね。見た目は別として・・辛うじてあれはまとも・・・いえ、失礼いたしました。大変・・噛み応えがあって・・美味しゅうございました。」
(若干、砂利風味ではありましたが・・・)

「それだ。それで行こう。王様、直接キャロルに 『そなたの焼いたパンが食べたい』 とでも言ってやってくれないか。その気にさせればパン焼きには下準備からそれなりに時間がかかるから、他の料理からは引き離しやすくなる。」
「では実際の料理はロディ様が?」
「しかたがない。加勢するよ。拗ねないように盛り付け役だけはキャロルにさせるとして・・・、かわいい妹と弟のためにお兄ちゃんが腕ふるってご馳走してあげるとしよう。楽しみにしておいて。」
「・・・・楽しみに?・・・・」
「何?その不審な目は。」
「・・・・・・・・」
「僕って器用だからさ、バーベキューやダッチオーブンは得意な方なんだよ♪古代の釜でも多少練習したから本気で作れば厨房の料理人に負けない腕前だと思うんだけどな〜。」
「その『本気』とやらがどちらに本気かがそなたの場合分からぬから不審に思うのだ。」
「まあまあ、正直者の王様に免じてちゃんと 『特別料理』 にしてあげるから安心しなさい。へそ曲がりな君にはほっぺも落ちるほど 『笑顔が絶えない特製スープ』 なんていいかな。うん。」
「そんなもの自分で飲んでおれ。 『ワライダケのスープ』 なんぞ飲まされる羽目になったら洒落にもならん。」
「あれ?なんで分かったんだろう?」
「以前、間者らしき者がへらへら笑いこらえて回廊で昼間に転がっていたことがあったからな。本人は最後まで何故そうなったかわからずじまいだったようだが・・・義兄上殿のところの様子も探っていた経緯があったと聞いてこちらは合点がいった。」

・・・あれは喜劇というより悲劇だった
凶手の凄腕が馬鹿みたいにわけも分からず腹抱えてゲラゲラ笑い狂う様というのは・・
当の本人が悲壮な心境なだけに白昼異様な光景だった。

「こんな馬鹿馬鹿しい効果を狙うのは今のところ一人しか思い当たらぬ。」
「ふふふ。平和だろう?笑う門には福来る。罪に手を染める前に自首してもらってみんな笑顔で怪我もなく大団円。」
「・・・まぬけすぎて思わず奴らに同情してしまったぐらいだ。」
「ちゃんとターゲットまで辿り着くかは半々だったんだよ。食料に買い込んでいた乾燥キノコに 『おまけ』 を混ぜておいただけだから。」

後日、調理して食べた頃に症状発生・・
命に別状はないが・・あまりに変な症状ゆえに、潜伏しようが密かに医者にかかろうが目だって勝手に足がつく
間者どもも自分たちが口にするものは厳選していたはずだから・・と、誰かに計られたなど思いもつかない・・

「足止めするだけならセンナか何かでお腹下させるほうが簡単だけど、それじゃ仕組まれたって見え見えだし、下品だし、何より芸がないだろ。」
「・・・・・・絶対に義兄上殿を敵になどまわしたくはないものだ。」

本人はお茶目だろう?と笑っているが・・そんなどうでもいいおもしろさの為に変な知略をつくされたら、やられた方は堪らない・・・・武人らしくさっさと切り殺された方がマシだと思えるほど、ロディの手にかかればまさに『一生の不覚』な滑稽悲惨な計略をかけられそうだ。


いや、今・・・正にその危機なのかもしれない。。。

キャロルの愛の結晶に真正面から挑むべきか
ロディの薄ら寒い謀略の味付けがされているかもしれない料理に立ち向かうべきか・・・・かなり悩む所だ

(・・・・とりあえず、今宵はキャロルが口にするものだけを食す事にしておこう・・)


「とにかく急ごうか!早くしないと本当に厨房で先発の被害者が出てるかもしれないし、キャロルも大怪我とかしかねないからね。」
「・・・・・・そうだな。」



ロディは・・・恐ろしく抜け目のない毒蛇だ。
侮れば最期・・・
毒蛇特有の綺麗な色と甘い顔をした外観に惑わされ、あっという間に奈落の底

噛むか噛み付かれるか・・

互いの共通項は「キャロル」だけ

もしも国が傾くことなどあれば、キャロルの危険を回避するため問答無用でわたしのもとから奪い去ることは間違いないのだ。
手の届かぬ・・神の国へ・・・・
だから・・・実際ロディとは毎日が真剣勝負な駆け引きと頭脳戦の連続だ。

だが・・・・・この敵の存在は・・・悪くはないと思う。
少なくとも・・・歩み寄ることすらもしない最大最悪の魔王、氷の長兄ライアンに比べれば・・・ずっとましなのだ。

実際、目的が一致すればロディは恐ろしく使える刺客となる。
『今回の一件』 がいい例だ。
ネバメンが密かに王位継承権を持つキャロルに不埒を働こうと画策していたことを・・・ロディの耳に入るようにしむけた。
その時点でヤツの命の火は消される運命となるだろうと・・。

そして・・・予想通り ・・・・現実に。

どこにも敵を作らず、誰にも不審を抱かせず・・・ 証拠も残さず狙いを仕留めるその手腕で。



まさに音もなく忍び寄る猛毒の蛇・・・

とぐろをまいたまま陽だまりで眠らせておけるかどうかは全て自分の力量次第・・・・・・



少し前を歩いていた妃に似た華やかな後姿の義兄が、自分への視線に気づいてふわりと振り返り微笑む。

「・・! ・・・・・・(ニコ)」
     

・・・メンフィスは改めてこれに挑むように口角を上げた。

ロディもいつもの優雅な微笑を頬に描く。


(・・・・・そなたら兄弟には負けはせぬ。・・・キャロルと、このエジプト王国・・・決してそなたらに手出しはさせぬ!)

(そうだね。その意気さえあれば・・・。・・・・何事も初心わするるべからずだよ。(ニッコリ))


そして一時、この義兄との共同作戦を展開するべく、既に大規模な騒音(&悲鳴?)が鳴り響いていた奥宮の厨房の中へ二人で共に足を踏み入れたのだった。



Fin.








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