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Second Night
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賑やかなざわめきが遠くなる

通路をゆきかう侍女たちの人数もこころなしかまばらになり
かわりに宮殿最深部独特の落ち着いた中に凛とした雰囲気が
次第にあたりを包んでゆく。

広間を出てから、メンフィスは妃を下ろすことなく、抱き上げたまま足早に奥宮殿へあゆみを進めていた。
広間を遠ざかるに従い、ひやかしに我慢していたキャロルの文句が大きく響く。

「ばかばかばか〜っっ! もうぅっ恥ずかしいっっ!!メンフィスなんて大っ嫌い!!」
「大嫌いだと?」
「そうよ!ひどいわっ!!わざとあんな人前で・・・・!!・・うっ・・・・・・」

かき消されたのはなんの言葉だったか――
じたばたともがいていたキャロルの体が急に動きを止めた。
ずっとパコパコとメンフィスの肩を叩いていた小さな手が、握られたまま固まる。
震えが伝わる
キャロルの体から・・・・唇を通して
昨夜以上に敏感に反応するようになっている・・・
自分の教えた愛が確実にキャロルの身体に焼き付いている手ごたえを感じた。

重なるシルエットが回廊に影を作る
抱きあげられたまま激しく口づけられて・・・
メンフィスはいつのまにかその場に足を止めて夢中でキャロルの柔らかな唇に己のそれを重ねつづけていた。
キャロルの何もかもが動けなくなってゆく―――

「ふ・・・・随分説得力のない反抗だな」
「・・・・・・・」

ほんの少しだけ唇をはずして、メンフィスはにやりと口元をゆがめた。
悔しそうな表情を見せるキャロルを面白そうに見つめる。
額がお互い触れあうほどの距離
少しでも動けば互いに届く―――

メンフィスは待った
じっと蒼い瞳を覗き込みながら・・・・
―――砂時計も止まりそうなほどゆっくりとした時間の流れがもどかしい

だがそんな中、ほんのわずかずつだが次第にキャロルの頬に変化があらわれる。
見つめつづけるにしたがって、ゆっくりと・・ほんのりと薄紅色に染まってゆく。
朝日の昇るのを待つかのように、忍耐強くその様子を静かに見つめ続けた―――
ちょっと怒っていた瞳の色に優しい光が差し込む
・・そして、ようやくふわりと輝くようなほほえみをみせたのだ。

(キャロル・・・・・・!!)

心が浮き立つ
その甘い接吻が訪れるのを、メンフィスの心は天にも上る思いで待ちわびた。
(キャロル・・・・はやく・・・参れ・・・)
陶酔の狭間でキャロルが喉の奥でくすっと笑うのが聞こえた。
(?!)
「―――だ・め・よ」
「!」
「さっき意地悪したから、あげない。」
その言葉と同時に、すいっとキャロルの細い人差し指がすっかり上気しているメンフィスの唇に縦にあてがわれていた。
すこしひやりとした指の温度が、もう少しで届くであろうキャロルの唇との間をさえぎる。

「・・・・・・・」
(―――こやつめ・・・!)
軽い舌打ち・・
(それならば・・・)
メンフィスはそのあてがわれた人差し指に口付けを与えだした。
何度も優しく吸い付いては、その唇にほどこすのと同じように愛撫する。
「め・・・メンフィス・・・・」
引っ込めようにも、唇ではさまれ逃げられない
そのうちに、メンフィスは軽くその指に歯をたてて甘く食んで見せた

「!っっ」

口付けの愛撫のせいでいつも以上に敏感になっている指先
歯をたてられたとたん、まるで電気コイルに磁力が発生したかのように全身に甘い震えが走り抜けた。
思わぬメンフィスの反撃にキャロルの思考はあっという間に冷静さを失ってしまった。
メンフィスの攻めは尚も止まらない。
つ・・・とメンフィスの頭が目の前から消えた。
今度は胸元に唇がおしつけられる。
首筋から鎖骨・・・胸元・・そして・・・・

「や・・・いやっ・・・・メンフィス!!!」

衣装の上からお構いなしに口づけてくる。
抱きあげられているせいで全身の自由がきかない



(わたしにさからってはならぬ―――)



そう・・聞こえた気がした。









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