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Second Night
W




一体何度互いを求め合ったことだろう―――

容赦なく内なる獣の思うが侭に激しく抱きつづけてしまった・・
飽くことなく・・突き上げる本能のままに幾度も昂ぶり狂ったわが身・・
ほんのつい先ほどまで―――



もうすぐ夜が明ける・・・

砂漠の空気が最も温度を下げる時間
少し肌寒い風が緩やかにナイルから舞っている


傍らにくったりとして眠り臥すキャロルの頬をメンフィスはそっとなぞった
「ん・・・・・」
ちいさくみじろぎ、こちらに更に寄り添うように寝返りを打つ


なにもかもを・・わたしにゆだねた―――愛しい・・妃よ・・・
そなたの全ては私のものだ・・・・・私だけの・・・・・・



そっとあらわになったままの細い肩に薄い上掛けをかけてやる
静かな部屋に響く、甘美なるその衣擦れの音・・・

そなたの姿のある世界は全てが天上界のように思える・・
女神が地上に・・我が傍らにまどろみにきているような・・そんな情景
薄い紗をわずかにまとわせ、甘い吐息でやすらぐ姿・・・
愛し合ったときとはうって変わったその幼い顔
松明火に揺れて淡い光をはなつ黄金の髪
扇のようにひろがりうねり、その裸身の神秘的さを更に引き立てている―――

「・・・・・・・メン・・フィス・・?」

ふわりとふいにその眼が開かれ、夜明けのナイルのような美しい青い輝きがきらめいた
わたしと視線が合うと・・先程の自分を思い出してか、恥ずかしそうに・・・あわく頬をそめた


いとしいやつよ――


静かにその髪をなでてやる

「すまぬ・・・起こしてしまったか・・・?」
「・・・・眠れないの?」
「・・・疲れたであろう・・・休め・・・」
「・・・メンフィスは?」
「そなたを・・・・・みていたい・・」
「え・・?」
「ずっと・・・・  さあ、眠るがよい・・・」
「ん・・・でも・・・・・・もうすぐ夜明けでしょう・・・?・・・わたしもそんなに・・眠っていられないわ・・・・・・・また・・すぐに・・起きなきゃいけないのに・・・・」
ふっとメンフィスは微笑んだ
「安心いたせ。明朝の予定はなにもない。宴に出る必要もない。・・・・・明日はそなたと二人きりで過ごすのだから」
「・・・ほんとうに?」
「ああ。・・・だから・・なにも心配せずともよい。さあ・・・ゆっくり休め。わたしも・・ずっとここにいる・・。」




―――確かに婚儀前から何かと忙しい日々ではあった。


メンフィスにとっては日常茶飯事でも、大勢の外国の賓客との交歓会・儀式や宴の連続・朝から晩までのこうした対応は、王家のしきたりに慣れていないキャロルにしてみればさぞかし緊張ばかりの息詰まる毎日だったことだろう・・・・。


(加えて・・・昨夜、今宵と・・眠る間もなく私にこれほど抱かれつづけたのだから・・・・)


本当の所、明朝に各国使者との対応がないわけではなかった。
だが、絶対にやらねばならぬほど重要なものでもない。

(ふっ・・・・・2日酔いか・・・・それもよかろう)


なによりも今は・・愛しい者の為に・・少しでも長くやすらげる時間を作ってやりたかった・・・・
新婚の夢にまどろむ幸せを、叶う限り与えてやりたい・・


「・・・・うん・・・そうな・・の・・・?・・・じゃあ・・本当に少し・・眠って・・いい・・」

次の日への安心からか、嬉しそうなほほえみを浮かべて、甘えるようにメンフィスの胸に手を当てた。

「・・・うむ・・・・」


正直心底ほっとしたのだろう・・・
メンフィスの身体に抱きつくように身を寄せたまま
キャロルはまたたく間に眠りの波へ落ちていった。

「ふ・・・・」

小さな微笑がメンフィスの口元を彩る
そして、メンフィスもしっかりと腕を回して、大切に大切にキャロルを抱きしめた。
暖かい素肌が直接に触れ合う
またしてもメンフィスの中で何かがはじけてしまいそうになってしまったが・・・


幸せそうに寝息をたててキャロルは眠っている。
子供のような無垢な顔をして・・・・


「すっかり安心しきりおって・・・・・」


わずかに苦笑しながら、メンフィスはいつまでもいつまでも・・
・・・その穏やかであどけない顔を見つめつづけていた。






「・・・・・・愛いやつめ・・・」














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