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王兄 ロディ・リード
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【訃報】
「・・・・王様の弟君が亡くなった?」
「はい。6日前のことにございます。」
ロディはまるで3流ゴシップ記事を読むが如く、なんの感情もなく淡々と報告書を読んでいた。
「ふぅ〜ん・・・。 ―――お気の毒だったねぇ。」
答える口調も全く気がない。
対岸の火事以下のどうでもよい世間話のよう。
「ロディ様、」
「はい?(にこ)」
「ファラオの『弟君』が亡くなられたのです。」
「うん。」
「貴方様にとっても『義弟(おとうと)』にあたるお方です。」
「そうらしいね。」
カチャリ・・
ロディは空になったカップを置き、おかわりを継ぎ足す。
そうして皿に盛られた簡単なつまみを口に放り込んだ。
この皿もご丁寧にも本人のこだわりから、現代でいう「大英帝国風 アフタヌーンティー・スタイル」の3段皿に改良されている。
「ホルス将軍もお一つどうぞ。これ僕の作ったサンドイッチ。結構美味しいよ。」
「ロディ様、」
「ほら。あ〜ん」
ふんぐっ・・

無理やり口に突っ込まれたのは卵サンド
ホルス将軍は口からはみ出た中身を急いで飲み込み言葉を続けた。
「・・・今テーベは大騒ぎなのです。来月には正式な葬儀もおこなわれますのでロディ様にも近々テーベまでおいでいただきたいとのご意向ですが・・・・・あの・・聞いておられますか?」
「聞いてるよ。」
「では10日後には改めてお迎えにまいりますので。」
「行かないからいいって。」
「ロディ様!」
「気が乗らない。・・・あのさ、茶畑の世話もあるから忙しいって断っておいてくれないかな。毎日ちゃんと水やらないとこの乾燥気候だろ、すぐダメになっちゃうんだよ。こう、なかなか微妙な加減があってね・・」
「・・・・畑の水遣りなど他のものどもに命じておけば宜しい。大体1年の半分はエジプトにおいでにならないのにそんな理由が通りますか!」
「通るよ。だって僕がいないのは増水期なんだからその間は湿気もあって問題ないんだ。」
「ロディ様、貴方様ご自身のご親族にあたる方のご葬儀ですぞ。」
「そうは言っても会ったこともない人だしねぇ。・・・・なんて名前でいらっしゃったかな?」
「・・・ネバメン殿下でございます。」
「ああ、そうそう。そんなお名前だったね。」
「面識がおありでなくても、義兄弟でおいでなのですから」
「向こうも訳分からない人間がお悔やみ述べても困るんじゃないかな?僕には今生きてる側の方が大事だよ。木はしゃべれないんだしさ。お水が欲しいよ〜って言ってるのを感じてやらなきゃ育つものも育たない。」
「・・・・・・ロディ様(溜息)」
子供のように得意げに、次々ともっともらしい答えを返す。
こういう(へりくつを連ねる)ところはどことなく王妃さまそっくりだ。
王都テーベには彼にとって誰よりも愛しい妹姫であるキャロル様がいる。
当初ロディはテーベにいたが、しぶしぶ下エジプトに居を定めた。
それというのも、ここ下エジプトに住まうことになったのは、信頼置ける兄にエジプト帝国の要衝であるギザを守る助けになってほしいとの王妃キャロルの直々の願いがあったからだ。
だから普通ならキャロル王妃のいるテーベへ行く事にどんな理由でも正当な事情があれば彼にとっては朗報なはずなのに。
「・・・とにかく、申し訳ないがご縁もないことだから失礼すると王様に宜しく伝えておいてくれないかな。」
そしてふわりと浮かべるいつもの穏やかな笑顔
この方には実に不思議なつかみどころのないところがある。
なにか含むところがあったとしても絶対に表に出さないのだ。
誰に対しても・・・いつも甘く優しげな微笑みで接し、呑気ささえ漂わせ煙に巻く。
「・・・・・・・・・」
何故か今はテーベへ行きたくないらしい。
下エジプトから動きたくないという彼の『本当のところの意図』はわからないが・・・
しかたがない・・・・。御命を受けている身なれば・・。
ホルス将軍は虎の威を借りるしかないと判断した。
「これは『ファラオとナイルの王妃のご命令』です。・・・お願いですから・・貴方様の大事な茶畑の世話の仕方は書面にでも詳しく書いて誰かに引き継いでおいてください。」
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